2020年12月11日 公開
2021年03月09日 更新
菅政権でデジタル化が推進されているが、慶応義塾大学教授でヤフー株式会社CSOの安宅和人氏は、本来であればいまは「データとAIの使い倒し」に邁進する必要があったと指摘。そのうえで、日本企業はアメリカのテスラのような新たな事業体を創出し、それらが育てば飛び移る「移住計画」を行なうべきだという。本当のデジタル化と経営者に求められる判断とは。
※本稿は『Voice』2021年1月号より一部抜粋・編集したものです。
聞き手:Voice編集部(中西史也)
――新型コロナ禍以前からDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれていましたが、菅政権がデジタル化の推進に注力する姿勢を打ち出していることもあり議論が加速しています。しかし、そもそもDXを明確に定義しなくては、改革を前に進めることは難しいでしょう。安宅さんはどう認識されていますか。
【安宅】DXの定義についていえば、僕は従来型の企業、すなわちオールドエコノミーが「AI(人工知能)×データ化」することだと考えています(次頁の図表参照)。
言い換えるならば「リアルな心」をもつリアルビジネスを、「サイバーな心」をもつリアルビジネスに変える“電魂物才”化です。自動車業界を例に挙げれば、オールドエコノミーの代表格はダイムラーであり、電魂物才を体現している企業がテスラでしょう。
ダイムラーのもつメルセデスベンツは世界で初めてガソリン車を開発したことで知られますが、モノの生産・販売を重視しており、その思想はマテリアル(目に見える存在)ドリブンです。
一方のテスラの思想は、データ×AIドリブンです。私たちがこれまで思い浮かべてきた「自動車メーカー」とは一線を画します。もう少し具体的にお話しすると、2019年8月に超大型ハリケーン「ドリアン」がアメリカ東海岸に向かった際、テスラCEOのイーロン・マスクは驚くべき発表をしました。
彼は、ハリケーンの進路にあたるフロリダ周辺の顧客に、「自分の車が充電1回で走行距離を伸ばす性能を、突如として身につけたことに気付くだろう」と呼びかけました。該当地域の顧客の車を対象に、バッテリー容量を増やす無料アップグレードをオンラインで行なったのです。
自動車のIoT(モノのインターネット)化により、機能の刷新が常時可能だからこそ講じられた措置です。それはまるで、スマホ化したクルマ。まさしく「サイバーな心」によるリアルなビジネスでしょう。
――従来のように、自動車をあくまでもモノとして扱う「リアルな心」では出てこない発想かもしれません。
【安宅】そもそもテスラは、自分たちをモビリティ企業とは捉えていません。彼らのミッションは、「持続可能なエネルギーへ世界のシフトを加速すること」。
テスラ車は、太陽光パネルと屋根用タイルを一体化した「Solar Roof(ソーラールーフ)」から家庭用蓄電システム「Powerwall(パワーウォール)」にエネルギーを溜めて充電できます。
これは「脱グリッド化(さまざまなインフラネットワークから切り離されて機能する状態)」の試みであり、既存のインフラ企業に対する大きな挑戦にほかなりません。そうしたテスラのような「第三種人類(次頁の図表右上)」に呑み込まれないためにも、オールドエコノミーはAI×データ化を進める以外に生き残る道はないのです。
更新:11月03日 00:05