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ヤフーCSO「テスラは“電魂物才”を体現した企業だ…」

2020年12月11日 公開
2021年03月09日 更新

安宅和人(慶應義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)

 

DXから「第3種人類」へ

dxだけでなく第三種人類的な取り組みが必要

――日本企業の多くが「AI×データ化」を推進できていないのが実情です。具体的に何から取り組むべきでしょうか。

【安宅】当然ながら、一刻も早くデジタル化を断行しなくてはなりません。しかし率直に言えば、これは20年前にはすでに着手すべき課題でした。2020年を終えようとしているいま、本来であればデジタル化よりも高次元の「データとAIの使い倒し」に邁進する必要があります。

一足飛びに改革を進めるのは躊躇しがちですが、僕たちに猶予はありません。企業はDX以上にまず、本業とは別の「第3種人類」的な新たな事業体を3つ、4つと飛び地のようにつくるべきでしょう。ここでいう「第3種人類」とはリアル、デジタル空間を両方を兼ね備えたという意味です。

それらのいずれかが育ち、やがて成功すれば速やかに飛び移る。いわば、事業の「移住戦略」をとるべきです。とりわけ大企業には、次世代の新事業を生み出す社会的責務があります。

日本企業が昨今、アメリカのGAFAを筆頭としたメガテック企業の後塵を拝しているのは、新事業への挑戦、新空間での事業構築を疎かにしているからではないか。少なくとも僕の目にはそうみえます。

いまからおよそ130年前、旧三井物産は貿易商社として活動しながら、発明家の豊田佐吉を支援しました。佐吉はその後、1920年代半ばに豊田自動織機製作所(現・豊田自動織機)を設立し、同社が1933年に設置した自動車部が現在のトヨタ自動車です。

機織りという当時の重要産業から、次世代の日本を牽引する自動車産業の旗手が産声をあげたわけですが、僕たちはいまこそ先人の気概を思い返すべきです。

もはや「データ×AIの時代」が到来しているとの認識のもと、新たな「大陸」に果敢にチャレンジしていかなくてはなりません。DXを進めるに越したことはありません。しかし真にやるべきことは、サイバーな力を中核とした新事業を創出して、そこにシフトしていく「移住計画」なのです。

――とはいえ現実問題、大企業であっても新事業を展開するには並々ならぬ覚悟と体力が必要です。

【安宅】それは経営者の決断一つでしょう。自らの身を切れないようなリーダーには、経営をする資格はありません。

手前味噌で恐縮ですが、現在僕がCSOを務めるヤフー株式会社を例に挙げれば、創業社長の井上雅博さんはネットバブル崩壊、リーマンショックすらも乗り越え16期連続の増収増益だった2012年に社長を退任しました。

国民のインターネット利用媒体がPCからスマートフォンにシフトし始めた過渡期のことで、「自分はスマホのことはよくわからないから後進に任せる」と宮坂学さん(現・東京都副知事)にバトンを渡したのです。宮坂さんはスマホ大陸への移住、爆速を掲げ組織の刷新を断行しました。

井上さんの退任は社内外で波紋を呼びました。しかし僕は、正しい判断だったと確信しています。自社に変化が必要とわかっていながら、自分では対応できないと認識したとき、経営者には自らに引導を渡して世代替えを進める覚悟が求められます。

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