2020年11月27日 公開
2022年03月02日 更新
外交における孤立主義と、内政における「小さな政府」というアメリカの伝統。これらをひっくり返した人がいます。20世紀初頭、民主党の第28代大統領ウッドロー・ウィルソンです。
彼はヨーロッパのゴタゴタに首を突っ込み、第一次世界大戦に参戦しました。これはアメリカ建国以来の国是をひっくり返すほどの大事件でした。どうしてこうなったのか。
実は、ウォール街との関係なのです。政治学者出身のウィルソン大統領は、はじめからウォール街の金融資本と強く結びついていました。それを象徴する出来事が、FRB(連邦準備制度理事会)の創設(1913)です。
イングランド銀行や日本銀行に該当するような強力な中央銀行をつくろうというプランは、歴代政権によって拒絶されてきました。しかし、ウィルソンはこれを認可し、しかも民間の金融機関が100%共同出資する形で発足したのです。
中央銀行と言えば、通常は国営です。日本銀行は半官半民ですが、フランス銀行は国営です。イングランド銀行は第二次世界大戦後に国営化されました。しかしFRBは今も民営です。つまり、ウォール街の巨大金融資本が、通貨ドルの発行権を握っているのです。
彼らは第一次世界大戦でボロ儲けし、連合国が発行した大量の戦時国債を引き受けていました。連合国がドイツに勝利すれば、この戦時国債の返済を迫り、さらに大儲けできるでしょう。
ところが、ロシア革命の勃発でロシアの戦争続行が不可能になります。ドイツ軍が反転攻勢をかけ、連合国の勝利が危うくなりました。ウィルソン大統領が参戦を決意したのは、連合国が敗北し、国債が紙くずになるのを恐れたからです。
「ウォール街の債券を守りたいから参戦する」ではアメリカ国民が納得しません。そこでウィルソンは、「ドイツの潜水艦による無差別攻撃を阻止するため」という建前を掲げ、参戦しました。
ウィルソンは100年続いたモンロー主義をかなぐり捨て、史上初めて米軍を欧州へ派遣し、連合国の勝利を助けました。大戦末期には国際連盟の設立を提唱し、「アメリカは世界の警察官になる」と言った最初の大統領でした。
これに対して「草の根保守」層が猛反発します。「アメリカとは何の関係もないヨーロッパの戦場に、若者たちを送るな!国際連盟などというわけのわからない組織に、アメリカ人の税金を使うな!」と。
共和党が多数を占めていた上院は、ウィルソン大統領が署名したヴェルサイユ条約の批准(承認)を否決し、国際連盟への加盟を拒否しました。
ウィルソンが「やり過ぎた」反動で、1920年代には共和党の大統領が3代続き、アメリカは孤立主義に戻ります。しかし、世界恐慌が起きて民主党のルーズヴェルト大統領が登場すると、政府と金融資本はまたズブズブの関係に戻っていったのです。
第二次世界大戦でも、参戦したくてうずうずしているルーズヴェルト大統領は、参戦拒否の「草の根保守」の世論をどうやって説得するか、策を練っていました。
1941年12月7日朝(ハワイ時間)、日本海軍が真珠湾を奇襲攻撃してくれたおかげで、ルーズヴェルトは堂々と参戦することができたのです。彼にとって真珠湾は、「悲報」ではなく「朗報」でした。
翌年、イギリスのチャーチル首相と太平洋上の軍艦で会談したルーズヴェトは新たな国際平和機構のプランを示し、戦後は米・英・ソ連・中国が「世界の警察官」となることを提唱しました。これが国際連合であり、ウィルソン以来の民主党の悲願がついに実現したのです。
今日なお民主党政権が国連に協力的で、共和党政権が国連に懐疑的なのは、このような経緯があるからです。
更新:11月22日 00:05