2020年11月05日 公開
――人間の「悪の側面」を描いてきた中村さんですが、物語がバッドエンドで終わることは少ないですよね。
【中村】僕は暗いので、明るいだけの小説は逆にしんどいんです。そんなふうにはなれないので。でも暗いだけではなく、自分が書く場合は、少しでも「希望」を残しておきたい。
一方で、仮に物語がバッドエンドでも、本当に良い作品であれば「こんな視点もあったのか」と一つの新しい視座を手に入れる機会になり得ます。共感したかどうかだけで価値判断をしてしまうのは、自分の好みを取捨選択しているだけなので、自分の枠を広げることにはならない。
小説に限らず映画や音楽、舞台にも言えることですが、世の中には「本当に素晴らしいもの」が存在します。内容自体には共感できなくとも、質の高い作品に触れるだけで「世界にはこんなに素晴らしいものがあった」と感情が動き、それが生きる実感に繋がるかもしれない。
まだ見ぬ素晴らしいものが世界にはある。ならば、もう少し生きてみようかな。読者がそう感じられるような作品が理想です。
更新:11月22日 00:05