2020年09月21日 公開
【河合】いまは少子化によって子供がほとんど生まれてこない自治体があります。そういう地域では20年後には自治体職員を確保できなくなります。一方で高齢化が進行して行政サービスを受けたい人は増えます。そうなると、住民自身が自分でやれることは自ら行なう「自助」が必要になります。
ただ、一人ではできないこともありますので、そのときはまずは助け合いに頼ることです。そのためにも、コミュニティを再興させて、「共助」の形をつくっていくしかないと思います。
【広井】同感です。「公」と「私」の二元論ではうまくいかない。「公」と「私」以外の「第3の領域」として、コミュニティや相互扶助の領域を立て直していくことが必要です。
最近は企業も「共助」の方向を意識していて、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(社会や企業統治に配慮している企業を重視して行なう投資)に取り組んでいます。
これまでは「企業は利潤を極大化して、それ以外のことは政府に解決してもらえばいい」という風潮がありました。でもいまは、企業の行動自体のなかに相互扶助の要素を入れ込むことが求められている。
もともと日本企業のDNAのなかには、近江商人の「三方よし」や、渋沢栄一の「道徳と経済の一致」、松下幸之助の「PHP(繁栄によって平和と幸福を)」理念など、利益に加えて社会貢献を志向する考えがありました。多くの企業がその原点に立ち返っているとするならば、それは歓迎すべきことです。
【河合】地域コミュニティには、経済指標に表れない富の再配分の機能も存在します。最もわかりやすいのは、お裾分け文化です。地方は収入が高くないうえに、じつは生活費もそれほど安いわけではない。
でも近所の人たちが野菜などを持ち寄って、経済的に楽になっている面があるわけです。共助の体制を確立していくと、見かけ上の経済指標よりも、国民の暮らしの質は向上していくと思います。
【広井】アメリカの政治学者ロバート・パットナムは、「ソーシャル・キャピタル」という概念を唱えています。社会関係資本と訳されますが、言い換えれば共助を指標化したものです。ソーシャル・キャピタルが充実している地域では犯罪が起こりにくく、健康水準や幸福度も高く、経済活力もあるという議論です。
私が所属している京都大学こころの未来研究センターでは文理融合の研究を行なっていますが、共助や社会資本といった概念はいま研究対象として非常に注目されています。今後ますます重要になる研究分野であることは間違いありません。
更新:11月03日 00:05