Voice » 地域再生 » “社会的孤立度”トップの日本を救うのはコミュニティの再構築だ

“社会的孤立度”トップの日本を救うのはコミュニティの再構築だ

2020年09月21日 公開
2024年12月16日 更新

広井良典(京都大学こころの未来研究センター教授), 河合雅司(ジャーナリスト/人口減少対策総合研究所理事長)

少子高齢化が深刻化する一方で、日本の社会的孤立度(social isolation)は先進国トップを走る。このままでは社会の混乱が避けられない。新著『未来を見る力』(PHP新書)を緊急出版したジャーナリストの河合雅司氏と公共政策の専門家である広井良典京都大学教授が対談し、コミュニティの再構築の必要性を訴えた。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年10月号、広井良典氏と河合雅司氏の対談「『共助』コミュニティの再興を」より一部抜粋・編集したものです。

 

東京では、困った女性がいても誰も声をかけない

【広井】新型コロナ禍を契機にリモートツールの使用が増え、個人の自由度がこれまでより高い形になりました。期待を込めて言うと、個人が会社という一つの集団にとらわれることなく、自由度を高めてつながっていく方向に向かうチャンスかしれません。

いわば、「人生の分散型」社会の到来とも言えます。分散型社会というと、東京一極集中か地方分散か、という空間的な意味で語られますが、それだけにとどまらず、これまでよりも多様な形で、個人が自らの人生のデザインを描きながら他者とつながるコミュニティを形成できれば理想です。

【河合】「21世紀を生き残るには、日本企業もデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しなければならない」と言われてきましたが、コロナ禍にねじを巻かれるように一気に動かざるを得なくなりましたね。

リモート会議やテレワークにより、空間的な問題の軽減はし得ると、多くの人が体験をもって知りました。私も沖縄県の自治体担当者とテレビ会議をしましたが、千数百キロ離れていても隣にいるような感覚で話ができました。

技術革新によって働き方や、仕事に対する価値観はこれから劇的に変わっていきます。今後は在宅時間も増えますので、新しいコミュニティのあり方についても考えていかなければなりませんね。

【広井】ミシガン大学を中心に行なわれている世界価値観調査(World Values Survey)によれば、先進諸国のなかで日本が最も社会的孤立度(social isolation)が高いとの結果が出ています。この調査でいう社会的孤立とは、家族以外のつながりや交流がどのくらいあるかということです。

日本人はいわゆる「内」と「外」の区別が強い。家族や集団の「内」では緊密なつながりをもつけれども、家族や集団の「外」に対しては閉鎖的な面がある。その文化を顕著に表した結果ではないかと思います。

【河合】日本のような同質性が高い国では本来、社会的孤立は考えられないですよね。個人が自らを守らなければならない大陸国家であれば孤立が起こることも頷けますが、日本は島国でかつ農村型の国でしたから、コミュニティをつくらざるを得なかった。この結果は驚きです。

【広井】私はアメリカに3年くらい住んでいましたが、街を歩いていると見知らぬ人同士が声を掛け合っていました。たとえば大きな荷物を抱えて困っている女性がいれば、誰かが手伝ってあげる。ヨーロッパでは一層そうです。

東京でそういう姿を滅多に見かけないのは残念に思います。言うなれば、東京は「無言社会」に陥っている。地下鉄に乗っていて、車椅子の女性が入ってきても、何となく冷たい空気を感じます。他の国だと、ニコッと笑いかけたりしますからね。

突き詰めれば価値観の問題ですから、一概にどちらが良いとは言えません。ただ、日本人は集団のなかでは気を遣うけれども、集団の外の見知らぬ人同士のコミュニケーションが不足しているように思います。

【河合】同感ですね。東京はコミュニティを形成するには規模が大きすぎるのでしょう。東京圏には約3700万人が密集し、知り合いと出会わないで一日を過ごせる街になっています。

一方で、たとえば京都市は150万人近い人口を抱える大都市ですが、それでも「この人と喧嘩をしたらその知り合いとの人間関係も悪くなってしまうのだろうな」と皆が思う。

ヨーロッパの街の多くはさらに小さく、数十万人規模です。住民は何かすると自分に跳ね返ってくる意識をもって自然防御的に行動するため、法律で決まっていなくてもルールを守ろうとします。

【広井】東京も含めて、日本の都市の規模は大きすぎますね。それと街で声を掛け合わないのは、皆さん忙しすぎて他人のことに構っていられない、という事情もあるでしょう。

【河合】とくに現代の日本人は効率性が素晴らしいことだと思い込んでいますから、手間がかかることはしたがりませんよね。戦後日本は、都市自体が効率性や機能性の観点で構築されてきました。その典型が東京です。

中心部のオフィス街はビジネスだけ、住宅地は住むだけと機能分化しています。繁華街も若者ばかりの渋谷・原宿と、高齢者が集まる巣鴨などとに街が分かれています。コミュティが分断されてしまっているのです。

ヨーロッパの都市は規模が小さいこともあり、店舗もレストランも数がそれほど多いわけではない。そのため若い人も子供連れの人もお年寄りも、比較的同じ店を使います。老若男女がチーズを片手にワインを飲んでいるような風景は当たり前です。

子供のころからそうした情景を目に焼き付けているから、自分が年を重ねても同じ行動をとる。高齢者にも社会的弱者にも手を貸すことを学びながら地域社会がつながっていく。そうしたコミュニティの機能が、日本では弱っているように見えます。

次のページ
少子高齢化時代に必要な「共助」の形 >

Voice 購入

2025年1月

Voice 2025年1月

発売日:2024年12月06日
価格(税込):880円

関連記事

編集部のおすすめ

山極壽一「いまこそ“老人力”が必要だ」

山極壽一(京都大学総長)