2020年07月14日 公開
2022年07月08日 更新
リーマン・ショックに象徴される金融資本の暴走は、アメリカ社会の貧富の格差を拡大させた。もとより、それは1980年代の新自由主義で顕在化したのだが、グローバル化によってさらに拍車がかかった。
さらに、ソーシャル・メディアの急速な普及が、自分たちではない「彼ら」に対する憎悪や偏見、フェイクニュースを拡散した。
リーマン・ショック後の経済危機への対処を迫られたのは、バラク・オバマ大統領であった。この史上初の黒人大統領、しかも、雄弁で知的なエリートの登場は、一部の白人層の怒りや人種偏見に火をつけたのである。
1980年にはアメリカの人口の8割を占めた白人が、いまでは6割になっており、今世紀半ばまでには過半数を失う。
今度は、ステイタス・ポリティクス(経済的格差拡大への不満や多数派としての地位喪失への恐怖)とアイデンティティ・ポリティクス(人種や宗教、ジェンダーの多様化への不安)が化学反応を起こした。
このように、孤立主義と衰退論、ステイタス・ポリティクスとアイデンティティ・ポリティクスが重なって、トランプ大統領の誕生を見た。
先述のヒューイ・ロングや1950年代に「赤狩り」を主導したジョセフ・マッカーシー上院議員、1960年代に「明日もまた人種隔離」と豪語したアラバマ州知事のジョージ・ウォーレスなど、アメリカ史には時として強烈なポピュリストが登場してきた。
その意味では、トランプ氏も例外ではない。ただし、孤立主義と衰退論、ステイタス・ポリティクスとアイデンティティ・ポリティクスがすべて揃って「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」を構成したからこそ、大統領当選を果たしたのである。
もとより、21世紀にアメリカが直面したさまざまな困難を、トランプ大統領にだけ結び付けることは、公正ではない。
「テロとの戦い」はジョージ・W・ブッシュ政権が着手したのであり、少なくとも当初は、超党派で多くの外交エリートが支持した。オバマ大統領はイラク戦争には反対したが、その後の中国の急速な台頭に十分には対応できなかった。
また、民主党の指導層はインテリ化、エリート化して、時には左傾化し、労働組合のような旧来の支持者たちの不満を看過してきた。同性婚をはじめとする性的マイノリティの急速な権利拡張に、とまどった人びとも少なくあるまい。
そうした変化への受け皿が、トランプ氏だったのである。トランプ陣営のメディア戦略と選挙戦術が巧みだったことも、認めなければならない。
更新:11月22日 00:05