2020年04月21日 公開
2022年07月08日 更新
感染症パンデミックに対する危機管理上の「ロジスティクス」にあたるのが医療体制の構築であり、医療の実践である。大災害や感染症のパンデミックにおいて、患者が急増することで医療機関の収容能力や対応能力を超える事態のことを「医療サージ」と呼ぶ。
医療サージが発生すると、本来助けることができるはずの患者の命を救うことができなくなることで死者数が増加する。よって、大災害や感染症パンデミックにおいて避けなくてはならないのが、この医療サージの発生である。
平常時に求められる医療機関の数や対応能力は限定されており、医療資源は有限である。その平常時の医療資源のまま、大災害や感染症パンデミックに対応せねばならない状況では、優先的に治療を施す対象を選定するトリアージが不可欠である。
新型コロナウイルスのパンデミックにおいても、こうした医療サージ、医療崩壊の発生を防ぐためにはトリアージを実践することで、重症化リスクの高い患者を優先的に治療できる体制を維持せねばならない。
感染拡大の初期段階においては、感染症指定病院だけで対応が可能であり、一般病院などにおける院内感染を防止するためにも、感染症指定病院だけでの対応に限定することに有効性がある。
だが、感染爆発が発生した場合には、感染患者のすべてを感染症指定病院だけで診察、治療することができなくなり、医療崩壊が発生する。
感染爆発が発生した場合には、新型コロナウイルスを治療できる感染症指定病院は極力、重症化リスク患者への治療だけに集中させ、軽症者や未発症感染者への対応は一般病院に振り分けられる政策的なトリアージ体制に移行することが必要である。
そのためには、感染拡大の中期以降はPCR検査(微量の検体を高感度で検出する手法)と診察のあり方を見直すべきである。
■福田充(日本大学危機管理学部教授)
1969年、兵庫県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。2016年4月より現職。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション。内閣官房委員会委員、コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員などを歴任。現在、内閣官房新型インフルエンザ等対策有識者会議委員。著書に『リスク・コミュニケーションとメディア』(北樹出版)、『テロとインテリジェンス』(慶應義塾大学出版会)など。
更新:11月22日 00:05