2020年04月10日 公開
2024年12月16日 更新
――本書ではアメリカのドナルド・トランプ大統領が使う「ケンカ交渉術」についても述べられています。今年初め、トランプ大統領の指示でイラン革命防衛隊のガーセム・ソレイマニ司令官が殺害され、米・イラン関係が緊迫しました。トランプ流の交渉術は、ビジネスにおける交渉とは別物なのでしょうか。
【橋下】ビジネスの場面では「協調的交渉」がほとんどでしょうが、外交では「敵対的交渉」をせざるをえないときがあります。協調的交渉は、お互いに得るものを探っていく、いわゆるWin-Winの結果をめざす交渉。
敵対的交渉は、一方が自らの要望を獲得した場合は他方が失うといった厳しい関係にあり、力と力をぶつけ合う交渉です。米・イラン関係は「敵対的交渉」の典型で、さらにアメリカは絶大な軍事力をもっており、この力の差は歴然です。
とはいえ、「自らの要望を絞り込み、譲れないラインを明確にする」という手法は、ビジネスと外交いずれの場合でも重要です。トランプ大統領はソレイマニ司令官殺害の際、米・イラン両国は何を譲ることができ、何を譲れないのかを見極めていたはずです。
「トランプ外交はその場しのぎで戦略がない」とインテリは叫ぶけれど、僕は見事な交渉術だったと思う。「アメリカ国民の命が奪われたときは絶対に許さない。軍事力を行使する」という自らの譲れないラインを示した。
一方のイランは、譲れないラインとして「一番強いメッセージをもつかたちで、アメリカに報復措置をとること」と定めた。ソレイマニ司令官殺害の報復としてイラクの米軍基地を弾道ミサイルで攻撃したけれど、アメリカ人の死者は出さないように計算していました。
一連の応酬で米・イランのどちらが「勝った」のかといえば、間違いなくアメリカでしょう。
中東で米軍への攻撃を指揮していたとされるソレイマニ司令官の殺害に成功し、イランの報復によって米国民の死者は出ていない。
トランプは、米国民の死者が出なかったのでそれ以上の反撃をせずに全面戦争を回避し、その上でイランへの経済制裁を強化した。トランプ流の「ケンカ交渉術」だからこそ成せた結果です。
――アメリカでは現在、民主党の大統領候補を決める予備選挙が行なわれています。民主党候補にトランプ大統領のような交渉を行なう人物はいるでしょうか。
【橋下】見当たらないですね。筆頭候補のジョー・バイデン氏はワシントンエリートの世界にどっぷり浸かっているから、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領といった"激しい権力闘争に揉まれてきた強者"とガチンコの交渉ができるのか疑問です。
若手のピート・ブティジェッジ氏は綺麗な理想を掲げるばかりだと思っていたら、案の定、予備選挙から撤退してしまった。
そもそも民主党において、外交交渉で失敗してしまった典型が、前大統領のバラク・オバマ氏です。
彼は2013年、「シリアのアサド政権が化学兵器を使用するならばアメリカは軍事力を行使する」というレッドライン、すなわち絶対に譲れない線を引いたにもかかわらず、実際に化学兵器が使用されたときには行動を起こさなかった。
自らの「絶対に譲れないライン」をきちんと整理できていなかったのです。これでは相手から足元を見られ、交渉で劣勢に立ってしまう。トランプ大統領はオバマ氏の失敗を教訓として、イランとの交渉に臨んでいたのだと思いますね。
更新:12月22日 00:05