2020年04月16日 公開
2021年08月17日 更新
現在、牧場で暮らす牛は、ジャージー牛のれもん、あやめ、すみれの三頭。広い山地でのびのびと育てられた牛たちの性格は穏やかで、島﨑さんの体に頭をすりつけ、実の母親のように懐いている。あやめは今年4月に、れもんは6月に子牛を生む予定だ。(聞き手:Voice編集部 撮影:増田元太)
本稿は月刊誌『Voice』2020年4月号、島﨑薫氏の「牛たちが、災害に負けない山をつくりだす」より一部抜粋・編集したものです。
島﨑薫さんは29歳で自分の牧場をもつ夢を叶えた。ここ「薫る野牧場」は、神奈川の大野山の山頂付近にある。8.8ヘクタールの土地に黄緑色の芝が広がり、小田原方面からの風を受けながら、3頭の牛たちが暮らす。
乳業会社を志望していた島﨑さんの進路を変えたのは、中洞正氏の著書に書かれた「山地酪農」との出会いだった。
自然に生える草を牛の食糧として乳生産をしながら、牛とともに山をつくる「山地酪農」に共感を覚え、中洞牧場に入社。大野山の土地活用の話が舞い込んできた際には自ら手を挙げ、牧場をひらく決意をした。
当初、山には2mを超える枯れたススキや、雑草がボウボウに茂っていた。そこに牛が入り、草を食べることで生えたノシバが、深さ40㎝以上の根を張って崩れにくい山ができていく。
台風が多発する日本では、手入れのされない人工林が土砂崩れを引き起こす多くの原因になるが、「人工造林以外にも、自然に存在する資源の力を借りて、強い山をつくる方法があると知ってもらいたい」(島﨑さん)という。
昨年3頭の子牛が生まれたが、乳の出ない雄牛2頭は出荷され牛肉になった。SNSを通じて彼らの成長を見守っていた人びとは複雑な心境だったかもしれない。
それでも島﨑さんは、自身の投稿を通じて「日常的に目にする、スライスされパックに入ったお肉も、もともとは動物の形をして動き回っていました。さまざまな命をいただいて自分たちの身体ができていることをどこかで考える機会になれば」と話す。
牧場に続く道には桜の苗が並んで植えられている。桜の芽が息吹くころ、牛たちは新しい命を牧場に生み落とし、その子牛がまた山を強くする。島﨑さんの夢は、この山をノシバで埋め尽くすことだ。
更新:10月30日 00:05