2020年03月19日 公開
2021年08月13日 更新
『パラサイト 半地下の家族』全国公開中
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『パラサイト』や『ジョーカー』など、アカデミー賞を席巻した作品は、共通して「今日的な社会認識」を孕んでいるものが多い。またそうした世界情勢のみならず、『パラサイト』の躍進はハリウッド側の戦略と合致していた、と映画研究者の伊藤弘了氏は指摘する。
本稿は月刊誌『Voice』2020年4月号、伊藤弘了氏の「『パラサイト』アカデミー賞の衝撃」より一部抜粋・編集したものです。
『パラサイト』が世界的に受け入れられた理由として、しばしば「格差と分断」をテーマに据えていたことが指摘されます。
ネタバレにならない程度に物語を要約すると、『パラサイト』は山の手の豪邸で優雅に暮らす富裕層一家に、半地下と呼ばれる低所得層向けの劣悪な住環境で暮らす一家が詐術的「計画」をもって寄生(パラサイト)を試みる話です。
こうしたテーマ設定自体がきわめて今日的な社会認識を反映したもので、その認識はグローバルに共有されています。
『パラサイト』の前年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)もまた、格差社会に対する批判を織り込んだ作品であるとして、よく引き合いに出されます。
あるいは、2019年のヴェネツィア国際映画賞で金獅子賞を受賞し、今年のアカデミー賞でも最多11部門でノミネートされ、ホアキン・フェニックスが主演男優賞を獲得した『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督、2019年)も同様のテーマを共有する作品と見なされています。
本作では、ジョーカー誕生の前日譚として、貧困層による富裕層への復讐の物語が描かれています。
「格差社会」を批判的に描いた映画が立て続けに製作され、高い評価を得ている背景には、右派的な政治勢力の世界的な台頭を見ることもできるでしょう。
そうした世界情勢が、映画界の左翼的危機感を刺激し、問題意識を共有する素地を形成しているように思われます。
トランプ大統領は今年2月の演説のなかで今回のアカデミー賞の結果に苦言を呈し、オスカーはアメリカ映画が受賞するべきだと述べましたが、ハリウッドの映画人たちは、まさにこのような右派政権のあり方に明確に否を突きつけているのです。
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更新:11月22日 00:05