南アフリカ戦後に行われた日本代表たちとスタッフたちの記念撮影 ©JRFU
2019年秋、初の自国開催となるラグビーW杯(ワールドカップ)での日本代表の躍進に、日本中が感動に包まれた。今大会で、決勝トーナメント進出の「陰の立役者」ともいえるのが、男子15人制日本代表で強化委員長を務める藤井雄一郎氏だ。
ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の最大の理解者で、選手とのあいだのパイプ役を担ったほか、大会後にはジョセフHCに続投を働きかけて、交渉を結実させている。今回、自国開催のW杯を振り返っていただくとともに、日本ラグビー界の課題と未来について伺った。
※本稿は月刊誌『Voice』2020年2月号、藤井雄一郎氏の「日本ラグビー強化の舞台裏」より一部抜粋・編集したものです。
聞き手:Voice編集部
――ロシア、アイルランド、サモアといった強豪を次々に撃破する日本代表の活躍には、多くの国民が勇気づけられました。また、大会中は台風 19号の被害が日本列島を襲った時期と重なりました。
【藤井】台風の被害が拡大するまでは、ベスト8に入らないといけないというプレッシャーは大きなものがありました。しかし台風が発生し、四戦目のスコットランド戦が中止になる可能性が出てきた。
カナダやナミビアの選手たちが被災地でのボランティア活動に尽力してくれ、あらためて感謝の気持ちでいっぱいです。そして何よりも日本の選手たちは、被災された方々のためにも試合に勝ちたいという気持ちを一番強く感じていました。
――台風の上陸前には、日本戦が中止となれば対戦相手のスコットランドがグループリーグ敗退となることから、同国ラグビー協会CEOが法的措置を示唆して延期を求める一幕もありましたね。
【藤井】ジェイミーも選手たちも「試合で決着を」と熱くなった。やってやろうじゃないか、と。そのぶんプレッシャーが消えて、攻撃的なマインドに切り替わることになりましたね。
スコットランド戦だけでなく、第三戦のサモア戦のラストプレーでも、練習でも決まらないようなプレーでボーナスポイントを獲得することができた。あの松島(幸太朗)のトライも攻撃的なマインドの賜物です。
――チームが一丸となって最後まで攻める意志がないと試合に勝てないのが、ラグビーの醍醐味であり、難しさなのかもしれません。
【藤井】日本チームの試合に限らず、大会を通じてどの試合も、より攻撃的なマインドをもつチームが勝っています。優勝した南アフリカは顕著で、彼らには勝たなければいけない理由があった。
日本戦では前回大会で敗れた雪辱を果たす思いがあったでしょうし、そもそもアパルトヘイトの時代を経て、黒人選手が初めて主将を務めるなど、さまざまな要素が絡まり合って最後まで前を向き続けていた。
その点、イングランドもオールブラックスに勝つという気迫で決勝まで突き進みましたが、南アフリカとの決勝では「受け身」にまわったようにみえた。
さきほどラグビーはデリケートなスポーツだと話しました。実力や試合中のコンディションが大事なのはいうまでもありませんが、最後に勝敗を分けるのはメンタルの部分だと私は思います。
更新:12月21日 00:05