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人間の一人ひとりに尊厳がある――外国人労働者と向き合う孤独な蕎麦職人。藤竜也インタビュー

2020年01月15日 公開
2020年01月17日 更新

藤竜也(俳優)

藤竜也写真:吉田和本

2020年1月17日(金)より、映画『コンプリシティ/優しい共犯』(監督:近浦啓)が全国で順次公開される。外国人労働者とその周りの人物の「生きづらさ」を描いた本作は、2018年・第19回東京フィルメックスのコンペティション部門で観客賞を受賞し、公開前から話題を呼んでいる。

舞台は現在の日本。技能実習生として日本にやって来た青年チェン・リャン(ルー・ユーライ)は、劣悪な労働環境から抜け出し、リュウ・ウェイという別人になりすまして、蕎麦屋で働くことになる。店の主人で厳しくも温かくリャンと接する弘(藤竜也)。二人は親子のような関係を築いていくが、やがて警察の手が迫ってくる――。

昭和、平成、令和の三代を通じて第一線で活躍し、本作で蕎麦職人を演じた藤竜也さんに、作品の魅力や役どころ、俳優としての信念について聞いた。

※本稿は月刊誌『Voice』2020年2月号、藤竜也氏の「『孤独』が人をつなぐ」より一部抜粋・編集したものです。

聞き手:編集部(中西史也)

 

戦後日本に感じる変化

――本作で題材として扱う移民や外国人労働者の問題について、撮影前や演じていくなかで考えを巡らせることはありましたか?

【藤】 それはとくにないです。あくまでも僕は蕎麦屋のオヤジとして、あの青年と接しただけですから。弘はそんな難しいことを考えないでしょう。

僕自身が社会問題を必死に勉強しちゃったら、弘ではなくなってしまう。そもそも、「俺はいろんなことをわかりながら演じているんだ」っていう姿勢は性に合わないんでね。

――藤さん自身が、弘という男になりきる。

【藤】 そういうことです。それでも、撮影が終了したいまだからあえて言うと、外国人労働者問題は日本だけではなく、世界中で起きていますね。

労働力が不足している国や地域は働ける人を求め、お金がほしい人は稼げる所へ行く。それは自然なことですが、必ずしもウィン・ウィンにはなれない現実がある。これは政治家が解決しなきゃしょうがないでしょう。

僕は演技のなかで自分の演ずる男に真摯に近づいていけばいいと思っています。

――日本は焼け野原の状態から高度経済成長を謳歌し、平成のバブル崩壊や東日本大震災を経験して現在の令和に至ります。「日本の変化」について、何か感じることはありますか。

【藤】 いちばんはやはり、デジタル社会になったこと。時代の流れとともに社会は変わっていくもので、たいていの変化は「まあこんなもんか」と思うけれど、これほどのIT化は予想していなかった。

あとは、ほかの国みたいに内戦や戦火にまみれることなく、ここまで平和にこられたのは幸運だと思う。

僕が日本に帰ってきたのは戦時中で、それからすぐ疎開地に行ったので、空襲は体験しませんでした。戦後は焼け野原の横浜で子供時代を過ごしました。

連合軍の兵士たちが町を闊歩するなか、くたびれ果てていた日本人がものすごい速さで回復していくのを目の当たりにしてきた。

それにしても最近のデジタル化は社会を劇的に変えましたね。世界がいっぺんに狭くなった気がします。

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