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片岡愛之助が語る、三谷作品『酒と涙とジキルとハイド』にかけた思い

2018年04月27日 公開
2019年05月07日 更新

片岡愛之助(歌舞伎俳優)

 2018年4月27日(金)から5月26日(土)まで、三谷幸喜作・演出の『酒と涙とジキルとハイド』が4年ぶりに再演される。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』を基にした本作は、19世紀末のロンドンが舞台。人間を善と悪の2つの人格に分ける新薬を開発したジキル博士が、学会発表を前に新薬の失敗に気付き、役者のビクターに別人格のハイドを演じさせるシチュエーション・コメディだ。本作でジキル博士役を務める主演の片岡愛之助さんに、作品に懸ける意気込みを聞くと共に、つねに進化を続ける歌舞伎俳優としての一面に迫った。

『酒と涙とジキルとハイド』初演時(左から藤井隆氏、片岡愛之助氏、優香氏。撮影:渡部孝弘) 

 

「三谷ワールド」を表現することが役目

 ――『酒と涙とジキルとハイド』の再演にあたり、率直な感想をまずお聞かせください。

 愛之助 僕にとってはたいへん思い入れの強い作品で、再び本作の舞台に立たせていただけることが何より嬉しいですね。それに、再演ですが、僕も出演者の皆さんも4年という歳月のなかで、それぞれ経験を積んでいますので、心機一転、新たな心持ちで舞台に臨んでいます。初演時よりもさらに面白いものを観ていただける、と自信をもっています。もちろん、初めてご覧になる方にもちゃんと楽しんでいただける内容なので、ご安心ください。

 ――ズバリ本作の見所は?

 愛之助 「酒と涙」とあるように、本作は三谷さんの演出ならではのコミカルな要素が存分に盛り込まれています。まずはその世界観を純粋に楽しんでいただければ。映画やミュージカルの『ジキルとハイド』を思い浮かべる方も多いと思いますが、この舞台はまったくテイストが違います。おそらく、皆さんの想像を100%覆す仕上がりになると思いますよ。

 ――初演では、愛之助さん出演のテレビドラマ『半沢直樹』のオマージュにも見える場面がありました。

 愛之助 あのシーンは稽古中、三谷さんや出演者の方々との掛け合いのなかで生まれたんです。「ここ、歌舞伎風に演じてみて」などムチャぶりを受けているうちに、アイデアが浮かびました(笑)。最初から台本が完成されているというより、作品に関わる人それぞれが試行錯誤を重ねながら、行間を埋めていく。まさに皆で創り上げていくというかたちの理想的な稽古でしたね。

 ――三谷さんが手掛ける作品への出演は、舞台としては本作が初とのことでしたが、三谷作品のいちばんの魅力は何ですか?

 愛之助 三谷さんは、役者が本来もっている引き出しを開けるのが本当にうまい。僕も、役者としての魅力を三谷さんに引き出していただいた気がします。そのうちに自分でも引き出しの中身を少しずつコントロールできるようになりました。演劇の舞台で身に付いたスキルは、歌舞伎でも応用できると思います。三谷さんは尊敬すべきアーティストであると同時に、役者としての魅力を高めてくれる恩人でもあるんです。

 稽古では、演出の視点も勉強になりました。三谷さんが何を考えて、どうやって1つの芝居を創り上げていくか、その過程を間近で見ることができたのは大きいです。

 ――初演時と同じキャストということで、抜群のチームワークのもと、賑やかな現場の風景が目に浮かびます。

 愛之助 皆さん溌剌としていて、本当に楽しい雰囲気でしたね。ジキル博士の婚約者・イヴ役の優香さんは本作が初舞台でしたが、そんなことを微塵も感じさせない。じつに堂々としたコメディエンヌぶりを発揮されていました。なにしろ『志村けんのバカ殿様』で志村さんと共演して鍛えられていますからね。

 一方で、ビクター役の藤井隆さんは、お笑いの世界でプロ中のプロ。稽古中に三谷さんが「藤井くん、このシーンで面白いことやってね」とムチャぶりをしても、毎回、必ず期待以上のパフォーマンスを発揮されます。アドリブ力があり、どんな球を投げても打ち返すので、イチロー選手みたいな存在ですね。

 ジキル博士の助手・プール役を演じた迫田孝也さんとは最近、共演が多く、『真田丸』『風雲児たち』(いずれもNHKドラマ)も一緒でしたし、「僕のことが好きなのかな」と思うぐらい(笑)。役者としてたいへんユニークでユーモアもある方ですが、役柄はシリアスなところもあって、そのギャップも見所です。

 この4人で再び舞台に立てることを本当にありがたく思います。そもそも三谷さんは、なかなか再演をしないんです。その意味でも、『酒と涙とジキルとハイド』は貴重な作品だといえます。

 ――歌舞伎と演劇、同じ舞台でもお芝居に臨むうえで明確な違いはありますか。

 愛之助 何といっても、歌舞伎では基本的に演出家がいません。それだけに、演劇の場合は演出家の世界観を何より大切にしたいと思っています。三谷さんがどういう思いでお芝居をつくっているのか、役者に何を求めているかを汲み取り、体現する。これが舞台に立つ僕らの役目です。コメディだからといって何か特別な個性を出そうとするより、いかに「三谷ワールド」を表現するかを重視しています。

 ――愛之助さんはドラマや映画などにも多く出演されています。これらの映像作品と舞台との違いについてはいかがですか。

 愛之助 僕は舞台畑の人間なので、テレビの場合となると、少し勝手が違う。たとえば、昔はスタッフの方から「もう少し自然に話してください」といわれることもありました(笑)。舞台のようなテンションで声が大きくなりすぎないように、声のトーンやオーバーアクションには注意しています。客席を前にした舞台ではステージ全体に行き届く演技が必要ですが、映像は限られた枠内での表現が求められる。細部をつなげて構成するテレビ映像の表現はやはり難しいですし、まだまだ勉強中ですね。

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