2019年12月12日 公開
ジャーナリストの福島香織氏は、「香港の法治はすでに死んでいる」と断ずる。警察は市民に信用されておらず、警察の暴力は、一般市民や外国人にも無差別に振るわれる、無法状態にあるという。
月刊誌『Voice』12月号では福島氏が香港の現地取材を通して見た、現状を伝えている。リーダー不在の香港のデモが変容を続けつつ抵抗を続け、警察とデモ隊の対立が激化していく様子を示した一節を紹介する。
※本稿は月刊誌『Voice』2019年12月号に掲載された「『大学戦争』の敗北とウイグル化の危機」より一部抜粋したものです。
デモが変質してきた背景にはいくつかの節目の事件がある。
まず、7月21日の「元朗駅白シャツ襲撃事件」。デモ隊の象徴の黒いシャツに対抗して、白いシャツを着た親中派のマフィア(三合会)らが、地下鉄元朗駅に乗り込んで構内や列車内の市民を無差別に襲撃した事件だ。
この事件に親中派議員の何君尭(ユニ・ウスホー)氏が関わっている可能性や、香港警察と三合会の結託を示唆する映像や証言が多々上がり、香港警察に対する信用は完全に失墜した。
デモの要求はすでに五大訴求(【1】逃亡犯条例改正案の完全撤回、【2】市民の抗議活動を暴動とみなす見解撤回、【3】デモ参加者逮捕及び起訴中止、【4】警察の過度な暴力制圧の責任追及、及び独立調査委員会による警察調査、【5】林鄭月娥《キヤリー・ラム》辞任と普通選挙実現)と変わっていた。
次に8月5日の交通機関ゼネスト。フラッグキャリア・キャセイパシフィックを含め、香港空港の離発着便200機がキャンセルされた。効果的なデモのために交通が不便になることも市民はある程度理解しており、このデモが香港市民の総意に近いものであることの一つの象徴でもあった。
8月9日、香港警察は、すでに退職していた元香港警察副警視総監で、2017年の香港返還20周年記念式典の警備手腕で習近平氏に気に入られていたタカ派辣腕の劉業成(アラン・ラウ)氏を現場責任者として呼び戻す。
これ以降の香港警察は、デモ鎮圧のために無関係の市民を巻き込むこともためらわなくなった。デモ隊に扮した警官がデモに紛れて煽動したりする「便衣」作戦も堂々と行なわれ始めた。
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催涙ガス、一斉逮捕、実弾発射警告…激化する警察の弾圧 >
更新:11月22日 00:05