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「重大情報」を入手した日本人スパイ・小野寺信…待ち受けていた“皮肉な結末”

2019年09月21日 公開
2024年12月16日 更新

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

茂木誠

駿台予備校の世界史講師として活躍しつつも、多数のベストセラーを世に送り出し注目を浴びる茂木誠氏。

その茂木氏が"古人類学による戦争の起源"から"21世紀の東アジアの未来"までをわかりやすく凝縮した著書、『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』(TAC出版刊)を上梓した。

空気に流されず、日本人が本当にしなければならないこととは何かを問う同書では、日本人は"戦争"とどう向き合ってきたのか?  そもそも人類はいかにして"戦争"を回避しようとしてきたのか? など、「戦い」を通じて「秩序」を作り上げてきた人類の歴史の核心に迫っている。

ここでは同書でも触れた、ソ連のスパイとして日本に潜り込んだリヒャルト・ゾルゲ、日本陸軍が生み出した世界水準のスパイ・マスター小野寺信について語る。

 

重大任務を負って東京に派遣されたゾルゲという男

(明石元二郎の諜報活動によるロシア帝国弱体化、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世による封印列車作戦など)ロシア帝国に対する日本やドイツの諜報活動がロシア革命を成功させた結果、史上初の共産主義国家・ソヴィエト連邦が生まれました。

レーニンやスターリンは、世界革命を推進するための強力な諜報機関を作り上げました。国内の反革命勢力を弾圧する秘密警察(チェカ→GPU→KGB)とは別に、各国の共産党を指導するコミンテルン(共産主義インターナショナル)、対外的に軍事情報の収集と謀略を行う赤軍の情報局(GRU)が活動を始めたのです。

これが逆に、日本にとっての脅威となります。

「世界革命、天皇制打倒」を掲げるコミンテルンの浸透を防ぐため、日本は治安維持法を制定し、日本共産党を非合法化しました。世界恐慌後、反共を掲げるナチスがドイツで政権を握り、日独防共協定を結びました。

この協定で、日独両国がコミンテルンの活動に関するヒューミントを交換することを約束しました。しかし日本の公安当局(特高警察)も、GRUの非公然活動についてはほとんど把握できていなかったのです。

スターリンにとって、西のドイツと東の日本、二つの敵と同時に戦うことはソ連の崩壊を意味しました。ソ連への侵略の意図を隠さないヒトラーを迎え撃つためには、満州の日本軍を何とかして別の方向、すなわち中国や米国へ向けさせる必要があったのです。

この重大任務を負ってGRUの工作員が東京へ派遣されました。リヒャルト・ゾルゲ。ロシア人の母を持つドイツ人ジャーナリストで、表向きはナチ党員でした。

ゾルゲは、上海で知り合った大阪朝日新聞の記者、尾崎秀実(ほつみ)を協力者に仕立てます。尾崎は近衛内閣の書記官長・風見章の紹介で近衛首相のブレーンとなり、中国問題の専門家として日中戦争に関するアドバイスを行いました。

風見章は信濃毎日新聞の記者出身で、労働運動の取材を通じて共産主義に共鳴し、同じ共産主義者の尾崎を抜擢したのです。彼らは「労働者の祖国」ソ連を救うため、近衛首相を中国との泥沼の戦争に引きずり込み、朝日新聞を通じて「南京攻略!」を煽ったのです。

ゾルゲはまた駐日ドイツ大使館に出入りし、ドイツのソ連侵攻計画に関する情報をモスクワへ送りました。疑い深いスターリンはこのゾルゲ情報を軽視し、準備不足のまま独ソ戦争を迎え、初戦で大敗します。

この苦い教訓から、スターリンは逆にゾルゲを深く信頼するようになりました。尾崎がもたらす日本の対米開戦の情報をゾルゲはスターリンに送り、スターリンは松岡外相をモスクワに迎えて日ソ中立条約を結びました。

日本軍の南進を決定した近衛内閣の「帝国国策要綱」の情報もいち早くモスクワに伝わり、スターリンはシベリアのソ連軍を引き上げて、ドイツ軍からモスクワを防衛することができたのです。

日米開戦の前年、日本の特高警察は「ゾルゲ機関」の一斉摘発を行い、ゾルゲと尾崎はスパイ容疑で有罪となり、絞首刑となりました。処刑の際にゾルゲは日本語で、「ソ連赤軍、国際共産主義万歳!」と叫びます。
結局、東條内閣は対米開戦を強行し、結果的にソ連を助けました。

1945年、ソ連軍は敗走するドイツ軍を追って東欧へ侵攻し、ドイツの敗北は時間の問題となりました。日独による挟撃の恐れがなくなったスターリンにとって、日ソ中立条約は無用の長物になっていました。黒海の保養地ヤルタに集まった米英ソの首脳は、ドイツ降伏後、3カ月以内にソ連が日ソ中立条約を破棄して日本と開戦することを密約しました。

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「ヤルタ密約、ソ連の対日参戦」の極秘情報を得ていた小野寺信 >

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