2019年09月12日 公開
写真:遠藤宏
大阪G20において議長国だった日本は、データの自由流通に関して議論をスタートさせた。データが経済を動かす時代において、自由流通に関してのテーマは早急に議論を進める必要がある。日本がいかにして議論をまとめていくか、世界が注目した。内閣官房参与の谷口智彦氏が、G20の舞台裏を明かす。
※本稿は月刊誌『Voice』(2019年9月号)、谷口智彦氏の「G20成功の舞台裏」より一部抜粋・編集したものです。
ブエノスアイレスでの不調を受け、大阪G20の舵取りが容易ならざるものとなることは、会議に先立つ半年以上前から見通せていた。
この際、安倍総理は思い切って局面を転換する挙に出る。尽くすべき議論がまったく尽くされていない新分野、いわばレッドライン・ランゲージがまだ固まっていない主題に、G20の関心を引っ張っていくことだ。
議長国として議題を打ち出すため、本年1月末には、スイスのダボスを訪れ、俗称「ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)」で演説する手筈になっていた。この日程を睨み、テーマづくりの議論はいち早く始まった。かつ、集約を見るのも早かったようだ。
「信頼に基づくデータの自由流通」というのがそれ。ここでいう「信頼」とは、プライバシーや安全保障に関わるデータを保護する点にかけての信頼を意味する。英語では、データ・フリー・フロウ・ウィズ・トラスト。頭文字をとって「DFFT」と呼ぶことにした。
ただし、それが具体的に何を指すか突っ込んでいくと各国各様、思惑の差は大きい。それで構わない。大阪を舞台に、まずはDFFTに向け協議を始める。そしてそのプロセスを「大阪トラック」と呼ぶことにしよう。
初日の、例の首脳をひしめき合わせた窮屈な会合は、まさしくこれ――「大阪トラック」を打ち上げるため演出されたものだった。
かくして安倍総理がダボスで打ち出し、大阪G20で合意にこぎ着けた新機軸とは、政府部内で比較的早くまとまったにしては、振り返るにつけよくできている。
いま3点特色を挙げるとすると、第1に、データがもつ新たな産業のコメとしての意義に、G20として初めて目を向けた。すなわち、この分野に先鞭をつけることで、日本はパイオニアとなることが望めた。
第2に、DFFTを育てて守る場を世界貿易機関(WTO)とすることで、近年何かと批判の多い同機関のテコ入れを、同時に狙うことができる。
そして第3に、WTOを舞台として今後曲折を経つつ長く続くだろう協議のプロセスに「大阪トラック」という名を与えることで、地名としての「大阪」をより一層国際ブランドにできる。
2025年の万博開催を控え、これはちょっとした巡り合わせである。もっともこれにはオチがあって、地元の一部運送業者が、「自分のことだろうか」と不審がったらしい。
自由に流通・利用させるべきデータとは、たとえば医療や健康に関わるものだ。治験情報が地球規模で利用できることになったら、疾病予防にどれほど役立つか。
ただし匿名情報とし、個人のプライバシーは秘匿しなくてはならない。「DFFT」とはそんなイメージである。
更新:11月22日 00:05