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全国的な京アニ支援を支えた「聖地巡礼」の文化

2019年09月16日 公開
2022年03月01日 更新

伊藤弘了(映画研究者)

アニメとのタイアップにより町おこしが成功

石岡は、「聖地巡礼」の象徴的な場所として埼玉県久喜市(旧鷲宮町)の鷲宮神社を挙げている。鷲宮神社は、京アニの代表作『らき☆すた』(2007年)に登場する「鷹宮神社」のモデルとなった場所で、アニメ放送開始後に多くのファンが訪れるようになった。

とりわけアニメ放送期間中の7月7日は、人気キャラクターの柊姉妹(柊かがみ[CV:加藤英美里]と柊つかさ[CV:福原香織]の双子、鷹宮神社は姉妹の実家という設定)の誕生日に当たっていたことから、大勢のファンが詰めかけた。

参拝客・観光客の急増を受けて、地元商店街や鷲宮商工会も『らき☆すた』にちなんだイベントを企画するなど積極的な働きかけを行なうようになる。

同年12月2日には、版元の角川書店と連携して、アニメで柊姉妹の声を担当した声優の公式参拝を実現させた(「『らき☆すた』のブランチ&公式参拝in鷲宮」)。

前年13万人だった正月三が日の初詣参拝客は、2008年には倍以上の30万人に上った(ちなみに久喜市の人口は約15万人である)。2011年には47万人(埼玉県内で2番目に多い)にまで膨れ上がり、アニメ放送から10年以上が経過した現在まで同程度の水準で推移しているようである。

こうした勢いに押されるようにして、2009年には埼玉県に観光課が設立される。アニメとのタイアップによって大々的に町おこしに成功した有名な事例である。

2008年9月には、地元の土師祭に「らき☆すた神輿」が登場した。当初はこの年限りの予定だったが、好評を受けてその後も継続され、2017年に10周年を迎えている。

2018年7月には八坂祭でらき☆すた神輿渡御が行なわれた。放火事件が発生したのは、7月28日に開催を控えていた今年のらき☆すた神輿渡御の直前のことである。

事件を踏まえて自粛も検討されたが、「こんなときだからこそファンに元気を届け、京アニの復活を祈願したい」との思いから実施される運びとなった。

久喜市商工会は、市や観光協会と協力して市内の12箇所に募金箱を設置した。8月2日には、犠牲者35名のうち、遺族の同意を得た10名の名前が公表された(8月27日には、遺族の意向にかかわらず残る25人の実名も公表され、物議を醸した)が、そのなかには『らき☆すた』(5話以降)の監督を務めた武本康弘の名前もあり、「聖地」は悲しみに包まれた。

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