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北朝鮮軍の韓国侵攻…その裏にあった中国共産党の「誤算」

2019年08月07日 公開
2022年01月17日 更新

江崎道朗(評論家)

 

北朝鮮軍の猛攻とアメリカ第七艦隊の台湾派遣

そして運命の6月25日。北朝鮮軍は38度線を越えて韓国攻撃を開始し、28日にはソウルを陥落、またたく間に韓国軍を釜山まで追い込んだ。

北朝鮮の緒戦の勝利は目覚ましかったが、大きな誤算があった。

第一は、金日成の予測に反して、韓国では北朝鮮の攻撃に呼応する革命蜂起が起きなかったことだ。北朝鮮の攻撃に呼応して韓国にいる共産主義者たちが立ち上がってくれると期待したのだが、実際はそのような動きはほとんどなかったのだ。

この段階ですでに毛沢東は、北朝鮮が短期間では勝てないと予測した。中国共産党中央軍事委員会は7月7日、中朝国境に部隊を配備して中国の安東(現在の丹東)と北朝鮮の新義州のあいだの橋を防衛することなどを決めている。

第二の誤算は、トルーマン政権がそれまでの不介入方針をかなぐり捨てて、直ちに行動に移ったことである。

国連安保理事会は6月27日、北朝鮮を侵略者として非難し軍事行動を停止するよう求める決議と、北朝鮮への武力行使を認める決議を矢継ぎ早に可決し、7月7日にはアメリカ軍司令官の下での国連軍(正式には「国連派遣軍」。米軍を中心に22カ国が参加した)編成を決定した。

同時に台湾に関してもトルーマン政権は不介入方針を撤回して、六月二十七日、台湾海峡に第七艦隊を出動させた。朝鮮戦争に気を取られて、台湾を取られないよう、あらかじめ手を打ったのだ。

毛沢東にとって、朝鮮戦争への米軍介入よりも、台湾海峡への米海軍出動こそが痛恨の出来事だった。

 

延期を余儀なくされた台湾「解放」計画

6月28日、毛沢東は中央人民政府会議で次のように発言した。

《アメリカによるアジア侵略はアジアの人民から広範で断固たる反発を受けるだけだ。1月5日、トルーマンは声明で、アメリカ合衆国は台湾に介入しないと述べた。

今や、トルーマンの行動は、この言葉が誤りだったことを証明している。更に彼は、アメリカ合衆国が中国の内政問題に介入しないという約束に関わるすべての国際的合意をずたずたにした。かくてアメリカは、その資本主義的本性をあらわしたのである。

[台湾に対するアメリカの政策から教訓を得ることは]中国人民およびアジアの人民のためになる。アメリカ合衆国は朝鮮、フィリピン、およびベトナムの内政に対するいかなる方法の介入も正当化することができない。

中国人民と世界の多くの人民の同情は、アメリカ資本主義には全く向かわず、侵略された諸国とともにある。……全国及び全世界の人民よ、手をつなぎ、アメリカ資本主義のいかなる挑発も阻止するべく万全の準備を整えよ》

毛沢東の発言は翌日の6月29日、『人民日報』に掲載された。

これを読めば、毛沢東の怒りがアメリカの朝鮮介入に対してではなく、もっぱら台湾への海軍出動に向かっているのは明らかだ。自らの手で台湾の併合、中国統一を果たす夢が一瞬で遠のいたのだから当然だろう。

毛沢東にとって朝鮮半島よりも台湾のほうが重要だったのだ。おそらく、これはいまの中国共産党も同じはずだ。

朝鮮戦争勃発後の7月12日、中国共産党上層部は、台湾「解放」の一環として、沿岸の島数カ所への攻撃計画を承認している。

7月半ばになると、中央軍事委員会は、朝鮮戦争が台湾「解放」を当面延期する理由であることを認めたが、それでも8月初めごろまでは、1951年夏に台湾を攻撃する計画を維持していた。

台湾「解放」計画が正式に1952年まで延期されたのは8月11日のことである。

朝鮮戦争の勃発が、毛沢東をして台湾「早期解放」を断念させたわけだ。この朝鮮半島と台湾との関係はよくよく理解しておくべきであろう。

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