2019年05月27日 公開
2024年12月16日 更新
いま、「日本一のエンタメ鉄道」と話題を呼んでいる鉄道会社がある。千葉県銚子市のローカル鉄道・銚子電気鉄道(銚子電鉄)である。近年、沿線の過疎化などから鉄道事業が落ち込んでいる一方で、車両内や駅舎をお化け屋敷としたイベント「お化け屋敷電車」や、煎餅などの商品を開発・販売するなど副業にも力を入れることで経営改善にチャレンジしている。
今回、そんなユニークなビジネスを仕掛け続ける銚子電鉄の竹本勝紀社長との対談に臨むのは、お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦氏だ。中田氏は芸能活動と並行してアパレルブランド「幸福洗脳」を経営し、新著『労働2.0 やりたいことして、食べていく』(PHP研究所)は3月の発売直後に増刷。今春からは青山学院大学経営学部の客員講師も務めている。
現在、銚子電鉄は超C(銚子)級映画「電車を止めるな!」を8月公開に向けて制作中だが、映画には中田氏の友情出演も決まっている。エンタメ鉄道の仕掛け人と、マルチに活動する新進気鋭の実業家による異色対談をお届けする。
※本対談の全文は、Voice2019年7月号(6月10日発売)に掲載予定です。
【竹本】 銚子電鉄の経営危機を救った「ぬれ煎餅」も最初からすべてが上手くいったわけではありません。当初は「買ってください」と売り歩いたのですが反応は芳しくなかった。「もうダメか……」と諦めかけたこともあります。
そこで2006年に始めたのがネット販売です。当時、私はまだ顧問税理士にすぎませんでしたが、自費でレンタルサーバを借りてオンラインショップをつくりました。当初は妻と一緒に売り文句となるキャッチコピーを考える有様。しかしある日、当時の経理課長が「ぬれ煎餅を買ってください。電車修理代を稼がなくてはならないんです」という言葉をサイトに載せました。キャッチコピーというよりは、痛切な「お願い文」です。
【中田】 しかし、だからこそ心を打たれてしまう。
【竹本】 おかげさまで瞬く間にインターネット上で話題になり、やがてメディアも続々と紹介し始めた。するといつしか全国的なブームになり、売上は従来の倍近い年間約5億8千万円を記録しました。結果、借金を完済することができた。まさに「奇跡のぬれ煎餅」です。
【中田】 ビジネスには「ストーリー」が大切だと考えているのですが、銚子電鉄さんはまさに自分たちなりの物語をつくり、そしてしっかりと発信した。普通は「助けてくれ!」という赤裸々な叫びをオープンにすることには抵抗があるものです。
【竹本】 恥を忍んででも銚子電鉄を生き残らせたい。そう思った末の行動でした。
【中田】 お話を聞いて、昨秋に立ち上げたアパレルブランド「幸福洗脳」のスタート時を思い出しました。いまでは幸い軌道に乗っていますが、ネットショップを開いた当初はほとんど売れていませんでした。困り果てた僕は、「ブランドを立ち上げたけれど、Tシャツが一枚も売れていない! 俺はどうしたらいいんだ!」と、当時パーソナリティを務めていたラジオで呼びかけた。銚子電鉄さんと同じように、あえて自虐的でネガティブな情報を世間に発信したんです。するとラジオの内容が物議を醸し、妙に面白がったリスナーがTシャツを購入しはじめたんです。放送後には注文が殺到しました。
【竹本】 たんに商品を売るのではなく、そこに自分の想いや物語を乗せる。だからこそ、中田さんの場合も多くの人の心を動かせたのでしょう。その意味では、確かに銚子電鉄の「ぬれ煎餅」の売れ方と、「幸福洗脳」がファンを獲得していく過程は親和性が高い。
【中田】 竹本さんご自身は、「ぬれ煎餅」「まずい棒」などが受け入れられた理由をどう分析されていますか。
【竹本】 鉄道会社にしては、何か面白いことをやっている。そして、一生懸命に頑張っている。皆さんにそう感じていただけたのではないでしょうか。
【中田】 いわば「キャラ立ち」したのですね。
【竹本】 中田さんも同じですよね。お笑い芸人でありながら、「RADIO FISH」という音楽ユニットでパフォーマンスされていて、加えて実業家としても活躍されている。私の目には非常に個性的に映ります。
銚子電鉄の場合は、苦しい状況の連続だったので前を向いてできることからやるしかなかった。逆説的ではありますが、鉄道の未来のために、鉄道以外の事業に力を入れて儲けなければならなかったのです。
更新:12月27日 00:05