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鯨を“殺し続ける”反捕鯨国アメリカの実態

2019年03月05日 公開
2019年03月07日 更新

八木景子(映画監督)

科学的議論が通用しないIWCの実態

IWC総会2018年9月に開催されたIWC総会の様子(撮影:八木景子)

――IWCからの脱退を決めた日本政府の決断をどのように受け止めましたか。

【八木】 政府の決定は当然で、むしろ遅すぎたのではないか、と思います。

メディアでも報じられているとおり、IWC脱退の決断については、安倍晋三首相と二階俊博・自民党幹事長の力が大きい。安倍首相の地元である山口県下関市は「近代捕鯨発祥の地」として知られます。

また、和歌山県太地町は二階幹事長の選挙地盤です。『ビハインド・ザ・コーヴ』が2015年にモントリオール世界映画祭に正式出品されたことを受けて、自民党本部で上映された際、二階幹事長には隣の席で一緒に鑑賞していただきました。

同じく和歌山県が地盤で捕鯨議連メンバーの鶴保庸介議員も、入院中に2回、自民党本部で1回、計3回も観たとのことでした。

――脱退の経緯をあらためてお聞かせください。

【八木】 IWCが1982年に「商業捕鯨」のモラトリアム(一時停止)を決定して以降、日本は87年から鯨のデータ収集のために南極海や北大西洋で「調査捕鯨」を開始する一方で、翌年に商業捕鯨を停止しました。

その後、30年にわたり日本が科学的データをもとに商業捕鯨の再開を訴え続けても、いっこうに提案は聞き入れられません。

たとえばIWCの科学委員会は「鯨資源包括的評価の結果、南氷洋のミンククジラは76万頭と認め、現在の管理方式に基づけば、百年間に毎年最低2000頭から4000頭を捕獲することが資源に何の問題も及ぼさず可能である」とすでに公表しています。

しかし、日本がこの実証結果をもとに商業捕鯨の再開を求めても、反捕鯨国はいっさい取り合わずに「鯨そのものがエコの象徴」と言い続ける。

日本がIWC分担金の最大の負担国として毎年、約2000万円を支払ってきたにもかかわらず、「自然保護に逆行する捕鯨は時代遅れ」というイデオロギーによって声を封じられてきたのです。

IWCは本来、「世界の鯨類資源を保存管理し、貴重な海の幸を将来にわたって利用を可能とすることを目的として」(国際捕鯨取締条約=ICRWより)発足した組織です。

ところが、実際は「利用」の側面はなかったかのように無視され、鯨の保護のみが強調される組織に変質してしまった。

たとえば昨年9月、ブラジル・フロリアノポリスで開催されたIWC総会で、日本は以下の提案をしました。

①関連小委員会でコンセンサス合意が得られた措置について、総会の可決要件を緩和(現行の4分の3から過半数に引き下げ)

②資源が豊富な鯨種に限り、商業捕鯨のための捕獲枠設定を規定

しかし、反捕鯨国は「先住民生存捕鯨と商業捕鯨とは異なるものであり、商業捕鯨につながるいかなる提案も認めない」「IWCは保護のみを目的に『進化』しており、『持続的捕鯨委員会』の設立やモラトリアムの一部解除はいっさい認められない」「このように重要な提案について短期間で結論を出すことは、手続き上問題がある」として、日本の提案を粉砕しました。

議決の結果、アメリカやオーストラリア、EU(欧州連合)加盟国などの反捕鯨国による反対41票、棄権2票(韓国、ロシア)、賛成は太平洋やカリブ海の島嶼国など27票のみでした。

鯨類の保護・持続的利用の両立と、立場の異なる加盟国との共存を訴える日本の立場について、反捕鯨国は「商業捕鯨を認めるいかなる提案も認めない」と強硬に反対したのです。

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