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門田隆将 オウム死刑囚・井上嘉浩の5000枚の手記は何を語るのか

2018年12月26日 公開
2018年12月27日 更新

門田隆将(ノンフィクション作家)

「なぜ、あんな優しかった息子が」

私の手元には、この20年余で井上自身が獄中で書きつづけた手記およそ5000枚、そして、父親が事件以来の出来事と、そのたびごとの思いを綴った回想録およそ600枚がある。被害者への謝罪と、自らの後悔が記された加害者側の赤裸々な告白である。

私は、この親子の手記を何度も何度も読み込んだ。そして、母親にもお話を何度もうかがった。

かつて「修行の天才」、あるいは、「神通並びなき者」と称され、1000人以上の信者を獲得したとも言われるこの若者は、なぜオウムの闇に囚われ、いかに地獄に墜ちていき、そして、そこからどのようにして抜け出すことができたのか。

オウム事件が私に教えたのは、人は些細なきっかけから、死刑囚になりうるということであり、また、まじめで真摯な人柄でも、そんな闇に落ちていくことがある、という残酷な事実にほかならなかった。

「なぜ、あんなまじめで優しかった息子がこうなってしまったんでしょうか」

長い年月となった交流の中で、老齢となった井上の両親から、何度、その後悔と悲嘆の言葉を聞いただろうか。

井上の裁判は揺れた。

審理の中で、井上が直接手を下した殺人事件が1件もなく、井上自身が犯罪から「逃げていた」という意外な事実が明らかになった。

そして、一審は無期懲役、二審は死刑という天と地ほども違う2つの判決が下された。その末に上告棄却によって、2009年12月、井上の死刑判決が確定する。

オウム死刑囚「13人」の中で、一審と二審の判断が分かれたのは、井上嘉浩ただ1人だった。

さらに、死刑確定後、1人の弁護士の登場によって井上の犯罪に対して「新証拠」が発見された。弁護士は、2018年3月、確定判決の事実誤認を、その新証拠によって証明すべく、「再審請求」をおこなった。

そこには、意外な事実があった。

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