2018年11月16日 公開
2023年02月20日 更新
さらにacatechは、デジタル・プラットフォームを使った新しいビジネスモデルも提案している。
たとえば将来ドイツ企業は、完成品を輸出したり、外国の工場で組み立てたりするだけではなく、部品や製品の製造ノウハウをソフトウエアとして、デジタル・プラットフォームにアップロード(公開)する。
ブラジルのあるメーカーがドイツのメーカーから、特殊な部品を迅速に購入する必要に迫られたとしよう。
現時点では、ブラジルの顧客は部品をドイツから航空貨物として送らせる必要がある。部品がブラジルに着いてからも通関手続きなどがあるので、注文してから顧客の手元に部品が届くまでに、数日から1週間はかかる。
カガーマンらが考えるエコ・システムでは、顧客は料金を払ってデジタル・プラットフォームにアクセスして、ドイツのメーカーがプラットフォームにソフトウエアとして公開している製造ノウハウを、自分でダウンロードする。
今日われわれが、PC上での作業に必要なソフトウエアを、IT企業のウェブサイトからダウンロードするのと同じである。
顧客はデジタル・プラットフォームの上で、自分の製造活動に必要な部品が入手できるように、ニーズに合わせて仕様、形状、材質などを調整する。
ブラジル企業は、そのソフトウエアを持って部品を製造するための原材料がある工場へ行き、3Dプリンターで部品を「プリントアウト」する。
こうすれば、部品の注文から納入までにかかる時間を大幅に短縮できる。ドイツのメーカーにとっては製品の製造ノウハウをインターネット上で販売するので、販路が大幅に広がり、それまでまったくコンタクトがなかった外国の顧客と取引関係に入れるという利点もある。
このプラットフォームによる新ビジネスモデルの開拓こそが、ドイツのデジタル化の究極の目的である。ビッグ・データを利用したスマート・サービスが普及しなければ、インダストリー4.0は失敗である。
ドイツのIoT計画がスマート工場による生産性の向上だけで終わるとしたら、「大山鳴動して鼠一匹」である。
じつはドイツ企業のなかでも、「スマート工場によって生産プロセスを最適化できれば良い」と考え、スマート・サービスによる新しいビジネスモデルの構築がもっとも重要だという点を理解していない企業が多い。
acatechは「米国や中国のIT企業に製造業界が蹂躙される前にドイツ企業は意識改革を行ない、スマート・サービスの重要性をいまよりも強く認識する必要がある」と述べている。この点はドイツの製造業界が直面する大きな課題である。
※本稿は『Voice』2018年12月号、熊谷徹氏の「インダストリー4.0の最終目的地」を一部抜粋、編集したものです。
更新:11月22日 00:05