2018年10月16日 公開
2018年10月16日 更新
聞き手:編集部
――ノンフィクションというジャンルにとっては「冬の時代」ともいわれるなか、昨年(2017年)12月に上梓された『ルポ川崎』(CYZO)が大きな反響を呼んでいます(7刷、9月10日時点)。これまで音楽をメインのフィールドとして活動されてきた磯部さんですが、なぜ川崎(神奈川県)という町を舞台にルポを執筆しようと考えたのでしょうか。
磯部 始めは担当編集者といまの不良少年の生き様に迫ろうと話していたんです。『AERA』(週刊誌)の人物ノンフィクション「現代の肖像」の、不良少年版のようなイメージです。
ただ、それだけだと企画としては漠然としすぎている。何かしらの「縛り」が必要だな、と。そのほうが、テーマが深化すると考えていました。
そこで頭に浮かんだのが川崎という土地でした。理由は大きく2つあって、1つが2012年から行なわれている「高校生RAP選手権」です。
回を追うごとにメジャーになった人気イベントですが、初期の参加者には学校にも通っていない不良が少なくなかった。とくに目立っていたのが川崎の少年たちでした。
本書で紹介しているラップグループ「BAD HOP」はまさにその象徴的な例で、いまや若者のカリスマとして日本武道館でのライブも決まっています。
――貧困からのし上がった世界的白人ラッパー、エミネムの半自伝的映画『8 Mile』の世界そのものですね。
磯部 私も同選手権で「BAD HOP」に衝撃を受け、取材を開始したのですが、幼いころから親の借金に苦しみ、暴力が蔓延る環境で育つなか、彼らはラップという表現手段を見つけて這い上がった。
そのリリック(ラップの歌詞)の舞台こそ川崎であり、われわれが知る日常とは異次元の世界があることを知った。「彼らを生んだのはどんな場所なんだろう」と興味を抱きました。
もう1つの理由が、2015年2月に川崎の多摩川河川敷で起きた中1男子生徒殺害事件です。加害者グループにはハーフの少年がいましたが、彼らが起こした凄惨な事件の背景として、複雑な家庭環境を挙げる人もいました。
同年5月には川崎駅近くの日進町というドヤ街で火災が起きています。火の回りが早かった原因として、生活保護受給者を1人でも多く収容するために行なっていた違法建築の常態化が指摘されました。
そこで自分の足で川崎を歩き、その実態を確かめたいと考えたんです。一般には語られることのない現代日本が抱える問題や、世間的にタブー視されている闇が見えてくるのではないか。そんな思いがあって、自宅のある世田谷(東京都)から川崎へ通うようになりました。
更新:11月22日 00:05