2018年09月23日 公開
2019年04月03日 更新
こうした新現象のポイントは、製造業であれば、中国企業が「日本企業の下請け部品メーカー」から、「日本企業を下請け部品メーカーとするブランドメーカー」に変貌を遂げたことである。
ファーウェイのスマホにしてもDJIのドローンにしても、日本企業の部品を多く使用しているが、完成品は彼ら自身のブランドだ。その点が、OEM(受託生産)に徹した鴻海など、一世代前の中華系企業とは根本的に異なっている。
一方、サービス業に関しては、「世界最大の中国市場での成功ノウハウを日本に輸出する」ことが特徴だ。
その際、日本の「障壁」にぶち当たる。滴滴出行のサービスは違法の白タク行為とみなされ、アリババのスマホ決済は日本の銀行業界の猛反発に遭う。
だがそれでも、中国企業は決して日本側と正面衝突はせずに、俗な言い方をすれば「抜け道」を探して入ってくる。何と言っても彼らは、あの中国共産党が支配する社会主義国で、生き残ってきたのだ。
日本に住む中国人たちが愛用している「找」(探す)というスマホのアプリがある。そこには、中国の各地方別の料理店を始め、仕事、不動産、病院、引っ越し、保険、弁護士、税理士、旅行など、日本にいて「中国語オンリー」で生活できるシステムが完備されている。日本版ミシュランの名店まで網羅されているので、中国人富裕層も見ているということだ。
こうして日本進出を果たした中国企業は、積極的に日本人社員を採用している。いまの日本の若者たちは、以前のような中国人や中国企業に対する偏見が少ない。
私は週に一度、明治大学で約300人の学生を相手に、東アジア国際関係論を教えているが、2017年の春学期、学生たちの間で大きな話題になったことがあった。
それはファーウェイが、「初任給40万円」を謳って、日本の優秀な大学生に入社を呼びかけたことだった。大学生たちには「初任給は20万円」という固定観念があったため、その2倍もくれる会社とは、いったいどんな会社だろうと興味を抱いたのだ。
実はファーウェイには、母国でこの手法に成功体験があった。まだ中国国内でも無名に近かった2000年、周恩来元首相の出身校でもある天津の南開大学で、大規模な就職説明会を開き、「最低初任給4500元」をぶち上げたのだ。
2000年の天津市民の平均月収は、わずか678元にすぎず、約7倍である。そのため名門・南開大学の逸材たちが、次々にファーウェイの門戸を叩いた。
気をよくしたファーウェイは2002年に、大卒新入社員の月給を5000元、大学院卒を6000元に定めて、全国から優秀な若者を集めていった。そうやって優秀な人材を確保して、世界中に進出していったのである。
2005年に東京に設立されたファーウェイ・ジャパンは、2012年から大卒の定期採用を開始。いまでは大手町の特等地にオフィスを構え、横浜の研究所など計7カ所の拠点を持っている。すでに1000人もの従業員を抱え、うち75パーセントが日本採用組だ。
日本の大学生にとって、こうした日本に進出している有力中国企業への就職も、「選択肢の1つ」になってきている。中国企業に中途採用で入社する日本の若者も少なくない。
ちなみに2018年8月に、リクルートの子会社インディードのホームページで、「中国企業、東京都」という条件で採用募集を検索してみたら、5492件も引っ掛かった。うち年収700万円以上が600件ある。
(本稿は、近藤大介著『二〇二五年、日中企業格差』(PHP新書)を一部抜粋、編集したものです)
更新:11月24日 00:05