2018年09月05日 公開
2023年02月22日 更新
篠田 民主党政権の時代には「東アジア共同体」という構想も掲げられましたが、これは何を足掛かりに構想を進めていくのか、具体性に乏しかった。
一方、インド太平洋戦略は日米同盟を基軸としてオーストラリアとパートナーシップを保ちつつ戦略的に重要な国にメッセージを送る、という道筋がはっきりしている分、安定感のある戦略といえます。
安倍政権が重視する地政学やグランド・ストラテジーの発想が背後にあることの表れでしょう。
松川 安倍総理は戦略論を押さえつつ、かつ大局観をもっていらっしゃると思います。篠田さんがおっしゃった地政学の見地を踏まえ、まさに地球儀を俯瞰している。
ビスマルクの言葉「ユーラシア大陸で大国たりえる国はプロイセン(ドイツ)、イギリス、フランス、ロシアの4つだけであり、このなかの3国を取らなければならない」を借りれば、人口、面積、経済力、立地などの条件に鑑みて、「帝国」たりうる資格を満たすのは、アメリカ、中国、インド、ロシアだけしかありません。もっとも、ロシアは、広大な領土と人口がアンバランスでやや劣りますが。
そのなかで日本はアメリカと同盟関係にあり、中国とは安全保障上の対抗関係にあります。一方、ロシアは中国と軍事・経済共に深く結び付いています。したがって、日本としては中露同盟を緊密に組まれないように働き掛ける必要がある。
このために最も有効なのは、本来は米露関係の改善です。残念ながらいまはなかなかうまくいく状況にはなく、先般の米露首脳会談も成功とは言い難い結果に終わりました。
安倍総理がロシアとの関係改善に積極的なのは、ロシアが中国に傾斜することを牽制する意味も大きいでしょう。
もちろん、中国の経済力は巨大であり、ロシアを中国から引き離すなどというのはどだい無理な話です。しかし、ロシアが中国のみに依存しない方向にもっていくことは、日本にとっても米国にとっても必要です。
こうした大局的な戦略の下で、安倍外交が展開されていることを理解しなければなりません。
(本稿は『Voice』2018年10月号、篠田英朗氏&松川るい氏の「インド太平洋戦略VS一帯一路」を一部抜粋、編集したものです)
更新:11月22日 00:05