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玉木俊明 習近平の「物流重視」は、中国史を変える大転換だ

2018年03月16日 公開
2018年03月16日 更新

玉木俊明(京都産業大学経済学部教授)


 中国は元来、物流システムの構築によって発展した国であった。隋代には、総延長2500キロメートルにもおよぶ京杭大運河が建造され、中国の市場は統一された。これは同時代のヨーロッパでは考えられないほどの、物流システムの発展であった。拙著『物流は世界史をどう変えたのか』(PHP新書)中国が長期間にわたり世界最大の経済大国でいられたのは、このように物流を重視したからである。

 さらに15世紀前半には、明の永楽帝の命により、鄭和がアフリカの東海岸まで遠征をおこなった。その頃の中国船は非常に大きく、500トンあったともいわれ、それに対しアジアに来航したヨーロッパ船は、せいぜい200トン程度だと考えられている。中国は、海の物流でも活躍していた。

 ところが中国は、15世紀半ばから朝貢貿易を発展させ、重要な商品の輸入でさえ他国の船にゆだねた。税金に必要な銀や必要な物資の輸入をとくにヨーロッパ船にまかせたことで、中国は経済の重要な部分を他国にコントロールされることになり、衰退したのである。

 だがその姿勢は、近年、大きく変化しつつある。それを如実に表すのが、「一帯一路」である。非常に熱心に中国経済を発展させようとしている中国の習近平国家主席による壮大な物流網構築プランである。

 この政策は、ユーラシア大陸全体におよぶ物流システムの再構築を意味する。ユーラシア大陸における陸上ルートと海上ルートが、中国を中心として結合される。そのルートは、中国西部-中央アジア-欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸部-東南アジア-インド-アフリカ-中東-欧州と連なる「21世紀海上シルクロード」(一路)からなる。これは、アメリカとヨーロッパ諸国からなる大西洋の物流システムに対抗して、ユーラシア大陸に巨大な物流ネットワークを構築しようという中国の意欲のあらわれである。

 中国は、2015年11月には、一帯一路への融資とインフラ整備のために、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を創設した。このように、中国は着々と一帯一路成功への道を進んでいる。

 現在の中国は、膨大な量の商品を、陸上・海上両方のルートで輸送しようとしており、中国政府は、積極的に物流に関与することを宣言したのである。

 一帯一路は、中国を衰退させた朝貢貿易システムの放棄であるとともに、物流の支配により、覇権国家になることを目指すシステムなのである。

著者紹介

玉木俊明(たまき・としあき)

京都産業大学経済学部教授

大阪市生まれ。1987年同志社大学文学部文化学科卒。93年同大学院博士課程単位取得退学。96年京都産業大学経済学部講師、2000年助教授、07年教授。09年「北方ヨーロッパの商業と経済 1550-1815年」(知泉書館)で大阪大学文学博士。著書に『近代ヨーロッパの誕生』『海洋帝国興隆史』(以上、講談社選書メチエ)、『ヨーロッパ覇権史』(ちくま新書)、『先生も知らない世界史』(日経プレミアシリーズ)など。

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