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次期教育ビジョンとりまとめへのヒント

2012年01月10日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研教育マネジメント研究センター長)

 わが国の教育ビジョンというべき次期教育振興基本計画の策定に向けた検討が進んでいる。昨年末、「第2期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方」(以下「基本的考え方」)を中央教育審議会が公表した。「基本的考え方」は、これからの社会の理念として「自立、協働、創造」という3つのキーワードを提示し、今後の教育の姿を描こうとしている。

 改正後の教育基本法に基づき、平成20年に現行の教育振興基本計画は策定された。現行計画の検討段階では、教育財政の量的目標に注目が集まった。同じく文科省が所管する科学技術基本計画が研究開発費の総額を示していることから、教育振興基本計画でも教育財政支出の数値目標を明記することを同省が目指したからである。けれども、財務省がこれに強く反発し、結局、数値目標は見送られることになった。

 現行計画は、財政支出の部分のみならず、計画全体を通じて実現しようとする将来像もあいまいでわかりづらい。教育を縦と横の軸で語るという試みはあるものの、既存施策の整理にとどまっているからだ。教育関係者にさえ現行計画の趣旨が浸透していないといわれる。

 新たな計画に現行計画の反省は生かされるだろうか。「基本的考え方」は、これまでの教育行政の問題点をつぎのように述べる。「明確な目標が設定され、教育政策の成果について、データに基づく客観的な検証を行い、そこで明らかになった課題等をフィードバックし、新たな取組に反映させるPDCAサイクルが、(略)必ずしも十分に機能していなかった」。問題認識は正しい。その問題認識に基づいて次期計画を策定できるかどうかが問われている。

 「基本的考え方」は、教育行政の4つの方向性を掲げる。「社会を生き抜く力の養成」、「未来への飛躍を実現する人材の養成」、「学びのセーフティネットの構築」、「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」である。しかし、これら4つの記述からわが国が志向する教育の姿を読みとることは難しい。「方向性」と言いながら、特定の方向を指し示すのではなく既存施策を分類する見出しを単に並べているだけのようにみえる。これでは現行計画と変わらない。

 まず、教育目標を明らかにすることだ。言い換えれば、方向性の的を絞る必要がある。目標達成には資源の重点配分が必須であり、目標の優先順位づけが不可欠だからだ。総花的に見出しを並べるだけでは国民にメッセージも伝わらない。少なくとも4つの方向性のうちのどれかに焦点を絞るべきであろう。

 もうひとつの問題は、国が行う施策の“改善”方針が書かれていない点にある。「基本的考え方」をみると、4つの方向性ごとに施策の“推進”方針が書かれている。だが、PDCAサイクルの目的はプロセスの“改善”である。結果を確認しながらこれまでのプロセスの修正をくり返すことで目標に近づいていくのがPDCAサイクルだ。つまり、目標達成のプロセスである各施策について、これまでの進め方をどう修正・改善するかを計画に盛り込まなくてはならないはずだ。

 中央教育審議会は、平成24年度に答申をまとめるという。つぎの計画では、的を絞った目標を設定したうえで、目標達成に向けたプロセスの改善方針を具体的に記載すべきだ。既存施策を並べるだけでは計画を策定する意味がない。

(2012年1月10日掲載。*無断転載禁止)
 

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