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新しいかたちの高校無償化

2011年11月16日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研教育マネジメント研究センター長)

 高校無償化見直しの検討が決まっている。「平成24年度以降の制度のあり方については、政策効果の検証をもとに、必要な見直しを検討する」と民主・自民・公明の3党が本年8月に確認書を交わした。

 ところが、見直しの目立った動きは見られない。概算要求では従来どおりの制度をもとに予算要求が行われている(24年度要求額3,964億円)。

 昨年度からスタートした高校無償化とは、つぎのような制度である。

 ①公立高校:授業料不徴収(授業料相当額を国が自治体に交付)
 ②私立高校等:就学支援金を生徒に給付(年間118,800円。低所得世帯にはその1.5倍又は2倍を給付。
生徒に代わって学校設置者が就学支援金を代理受領)

 この制度に対し、自民は「所得制限も行わず無償化するのは過度の平等主義・均一主義」であり、「その半面、私立学校に通う生徒に学費を負担させることは、不平等を拡大」と批判する(自民党「高校授業料無償化の問題点!」)。公明は、特定扶養控除の見直しにより負担増となる世帯があるため、給付型奨学金の創設などを求める。

 たしかに現行制度にはいくつかの問題点がある。そこで、新しい無償化制度に向けた改善方策を、"効果・効率・公平"の3つの観点から提案する。

 まず効果という点から考えてみたい。高校無償化の目的は、「家庭の状況にかかわらず、全ての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくる」とされる(文科省資料「概算要求主要事項」)。このため授業料の一部または全部を軽減しているが、高校進学に要する費用は授業料だけではない。授業料以外の学校教育費(学校納付金、修学旅行費など)は、公立高校で年間約24万円、私立高校で約46万円である(同省「子どもの学習費調査」)。生活保護世帯に対しては学用品費等が給付されるものの、修学旅行費は対象外となっているなど十分ではない。各県による貸与型奨学金の額も所要額には満たない。制度目的に沿った効果を得るには、概算要求に掲げる給付型奨学金の創設をはじめ、授業料以外の経費に対する支援の充実が不可欠だ。

 次に、効率という点から考える。現行制度は、世帯所得の多寡を無視して授業料不徴収および就学支援金給付措置を講じる。しかし、限られた財源のなかでの高所得世帯に対する措置は決して効率的とはいえない。授業料不徴収および給付措置に対しては所得制限を設け、一定所得以上の世帯に対しては本人の希望に基づいて無利子奨学金を所得制限無しで貸与すればよい。効率化によって財源を捻出すれば、低所得世帯に対してより手厚く支援できる。

 公平という観点からは、公私間の格差が課題となる。公私間で保護者負担に差を設けることは妥当ではなく、公立の授業料不徴収と同等の無償措置を私立にも適用すべきではないか。私立への進学保障が求められるのは、公立入学枠が限られており、すべての生徒が公立に進学できるわけではないからだ(生徒全体の3割を私立が受け入れている)。私立の授業料は年間で平均約32万円であり、国の就学支援金だけでは足りない。自治体が上乗せする支援措置によって低所得世帯は私立も実質無償化となる場合があるとはいえ、支援内容は自治体によってばらつきがあるのが現状だ。一定ラインまでは全国同じように実質無償化を確保する措置が望まれる。

 同じく公平性の問題には、支援対象を定める線引きをどうするかも含まれよう。不登校の子どもが通うフリースクールは支援対象になっていない。また、朝鮮学校を対象として指定するか否かの結論はいまだに出ておらず、今後、文科大臣が朝鮮学校を指定すれば政治問題化しかねない。これらの線引きの問題は、教育施設によって対象内外を分けるという制度の限界に由来する。教育施設に着目すれば、基準を満たす施設と満たさない施設に区分される。だが、基準を満たさない施設に通う子どもも学ぶ意欲を持っている。教育施設に着目する現行の仕組みに加え、個人に着目して個人を直接支援する仕組みを新たに設ければ、「全ての意志ある」子どもに支援を行きわたらせることが可能となるはずだ。

(2011年11月14日掲載。*無断転載禁止)



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