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消費増税5%のカラクリ

2011年12月20日 公開
2024年12月16日 更新

宮下量久(政策シンクタンクPHP総研研究員)

宮下量久

  政府・民主党が消費増税の法案化に向けた議論を始めた。社会保障改革案(以下、改革案)では、2010年代半ばまでに消費税率の5%引き上げを前提にした制度設計が示されている。しかし、多くの国民は増税に納得していないのではないか。

 政府は社会保障の機能強化を図るため、公共サービスにおける質・量の充実と効率化等の見直しを改革案にまとめている。その結果、社会保障の充実を図る費用(約3.8兆円)から、現行制度の見直しによる歳出抑制分(約1.2兆円)を差し引いた2.7兆円程度が機能強化費として見込まれている。この機能強化の財源には、消費増税1%分(約2.7兆円)が充てられる予定である。

 歳出増加を伴う社会保障改革は必要なのだろうか。財政状況が深刻だからこそ、増税が議論され始めたのである。改革案によれば、「国民の自立を支え、安心して生活ができる社会基盤を整備する」ために、制度強化が必要であるという。しかし、政府が安心な生活を保障しようとする一方で、国民の自立を妨害してしまうかもしれない。実際、現行の生活保護制度は受給者の労働インセンティブを削ぎ、自立生活を妨げている面があると考えられる。ある地域における月額の生活保護費は最低賃金で働いた月額給与を超えているのである。社会保障の充実はモラルハザードを招く恐れがあることに留意すべきである。

 現行制度の見直しによる歳出抑制額(約1.2兆円)も検討の余地がある。例えば、年金制度では、支給額を物価水準に合わせて増減するマクロ経済スライドがデフレ下で適用されず、これまで約7兆円の過払いが生じている。マクロ経済スライドは現行制度の見直し項目として改革案に記載されているが、これが実施された場合の歳出削減額は計上されていない。子育て支援分野でも、保育サービスの効率化による経費節減額について改革案に記述がない。つまり、現行制度の見直しによる歳出抑制額は過少に見積もられているといえる。仮に、社会保障の見直しによる歳出抑制が充実化による歳出増加と同額になれば、消費増税1%分が社会保障改革には必要なくなる。

 消費増税5%のうち残り4%分(約11兆円)は、(1)年金財源の安定化、(2)高齢化等に伴って増加する歳出、(3)社会保障制度の機能維持、(4)消費税引上げに伴う社会保障支出等の増加という4項目に1%ずつ充当される予定である。この中で、(4)は消費税を社会保障財源に充てるという方針に反する恐れがある。社会保障支出「等」という記載があるため、政府は増税で確保した財源を社会保障支出以外の歳出に転用する可能性を残していることになる。また、改革案における(4)の説明に「消費税を引き上げた場合に増加する国・地方の物資調達にかかる支出」という記述がある。消費増税が実現した場合、公共サービスの物資調達費が増税1%分も増えることは考えにくい。消費増税5%のうち、機能強化に充当される1%分と(4)で必要とされる1%分の使途を政府は精査しなければならない。この改革案のままでは、増税の根拠にカラクリがあるといっても過言ではないだろう。

 国民が納得しうる社会保障改革の実現に向けて、政府・与党は消費増税の根拠をより詳細に明らかにするべきである。

(2011年12月19日掲載。*無断転載禁止)

 

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