2017年11月15日 公開
2024年12月16日 更新
聞き手:編集部 写真:遠藤宏
――日本企業における長時間労働による弊害は以前から指摘されているにもかかわらず、なかなか改まる兆候がみえません。本書では、残業がなくならない理由を統計データや常見さん自身の経験を基に分析しています。ズバリ、なぜ残業はなくならないのでしょうか。
常見 そもそも仕事の絶対量が多いこと、突発的な仕事が発生すること、業務の繁閑が激しいことの3点が、残業がなくならない主な要因です。厚生労働省の『平成28年版過労死等防止対策白書』では、残業が発生する理由として、企業側と労働者双方ともこれら3つが上位を占めています。つまり、残業の原因は個人の能力ではなく、仕事の在り方や量に起因しているということです。
メディアではよく、「ダラダラ会議をする日本人の体質が残業につながっている」といった図式の報道がされますが、本質を捉えた議論とはいえません。まずは正確な現状認識が必要でしょう。
――長時間労働の原因が、構造的な仕事の多さ(あるいは人員不足)に起因することは、多くの会社員が自らの経験として共有していると思います。繰り返しますが、それでもなぜ残業はなくならないのでしょうか。
常見 結局のところ、残業は経営者と労働者双方にとって「合理的である」という側面があるからです。経営者にとっては、労働者を新たに増やして人件費がかさむくらいなら、1人当たりの労働時間を延長して対応するほうがコストも掛からない。そして労働者にとっても、時間外労働の割り増し手当をもらえるという〝メリット〟があります。柔軟に働くことも可能です。
――企業によっては残業代が青天井だった時代もあったといわれます。日本企業特有の「ガンバリズム(努力主義)」によって残業が生まれる面はありませんか。
常見 日本企業における仕事の任せ方が残業を誘発している面はあります。簡単にいえば、「仕事に人をつける」欧米型と違って、日本では「人に仕事をつける」手法を取っています。前者はジョブ型、後者はメンバーシップ型といわれます。ジョブ型は業務内容や責任が明確なため、仕事が定型化しやすい。一方、日本のようなメンバーシップ型では、1人の社員に複数の業務が与えられやすく、職種を超えた仕事を任されることもある。そうすると仕事の範囲がどんどん広がっていき、際限がなくなってしまうのです。
ただし、一概に「人に仕事をつける」手法が悪いわけではありません。自らの専門分野以外のスキルを身に付けることにつながるし、人員の増減にも柔軟に対応することができる。「欧米型と日本型のどちらが良いか」という二者択一はナンセンスであり、各々の功罪を見極めるべきです。
――正社員の総合職は誰もが昇進や昇給をめざすのも、日本型雇用の特徴ですね。
常見 全社員が幹部をめざす前提で働く仕組みは、間違いなく日本型雇用の負の側面だと思います。誰もが管理職になれるわけではないのに、半ば強制的に出世競争に巻き込まれていく。なかには必ずしも管理職ではなく、現場でバリバリ仕事を続けたい人もいるでしょう。管理職と専門職で育成方法や評価方法を変える、といった仕組みの導入が必要ですが、あまり進んでいないのが実態ではないでしょうか。
(本記事は『Voice』2017年12月号「著者に聞く」、常見陽平氏の『なぜ、残業はなくならないのか』を一部、抜粋したものです。全文は現在発売中の12月号をご覧ください)
更新:12月22日 00:05