2017年11月08日 公開
2024年12月16日 更新
現在、改憲それ自体に反対している立憲民主党、社民党、共産党の衆議院における勢力は69議席である。彼らが、この15%にも満たない議席の死守だけを至上命題として教条的な護憲主義に固執するのであれば、相互の票の奪い合いだけが待っている。原理主義的性格の純粋さだけを競えば、やがて立憲民主党は、共産党に侵食される。
枝野・立憲民主党代表は、もともとは改憲派である。「筋を通す」といった理由で新党を結成した。しかし改憲反対のみならず安保法制反対を旗印にし続けていては、政権担当政党にまで脱皮することはできない。どこかで枝野代表が本来模索していた現実的な外交・安全保障政策に舵を切りたいだろう。9条解釈論としての改憲論争に終止符が打たれれば、内政面の政策論争に専心できる。
本来であれば枝野代表自らが積極的に改憲案を出すべきだが、それは今回の選挙の有権者の期待を考えると、なかなかできないだろう。しかし立憲民主党として改憲を阻止しないようにしておくことは、理にかなう。護憲派として振る舞いながら、改憲成立後の情勢をにらんでおくことは、立憲民主党の立ち位置からすれば合理的である。
正規の手続きを踏んで安保法制の違憲性の疑いが問題にならなくなったときが、立憲民主党が現実主義政党に脱皮できるときである。「筋を通す」ことと、改憲絶対阻止は同じではない。改憲手続きが成立すれば、安保法制は違憲だと叫び続ける必要もなくなる。
いまや国民的合意のある改憲のキャスティング・ボートを握っているのは、ある意味で立憲民主党の枝野代表である。
立憲民主党の「国民との約束」と題された政策項目を見ると、「専守防衛を逸脱し、立憲主義を破壊する、安保法制を前提とした憲法9条の改悪に反対」とある。この文言は、多分に矛盾をはらんでいる。立憲主義は憲法に沿って行動する立場のはずだが、「専守防衛」という憲法典に書かれていない考え方が脅かされたら、正規の手続きに沿って憲法が改正された場合でも、それを認めない、といっているかのように読めるからである。
これは憲法典を超越した上位の主義主張を掲げる立場であり、むしろ憲法よりも大事なものがあると訴えている点で、立憲主義的なものとはいえない。立憲民主党が、そのような護憲派独裁主義を掲げる政党なのかどうかがこれから試される。
「立憲主義」とは、「護憲派独裁主義」と同義で、特定の9条解釈を神聖不可侵とする立場のことなのだろうか? 特定の政治イデオロギーに沿った憲法解釈だけを絶対視する教条主義が、「立憲主義」なのだろうか? むしろそれは、「立憲主義(constitutionalism)」という概念の「ガラパゴス」的な濫用ではないだろうか?
枝野代表は、あえて自分は「リベラル保守」だと名乗り、既存の概念整理にはとらわれない姿勢を示した。しかし、いわゆる「護憲派」だけが「立憲主義者」であり、ガラパゴス的な「護憲派」にならなければ「立憲主義者」だとは認めない、といった態度を取るのであれば、やはり「リベラル保守」派は教条主義的な「護憲派」と同じだということになる。
立憲主義者とは、現在の憲法学界の多数派が標榜している政治イデオロギーを唯一神聖不可侵なものと見なす教条主義のことではないはずだ。憲法典に定められた正規な手続きを踏んで憲法が改正されれば、新しい憲法の内容に沿って行動するのが、立憲主義的であるはずだ。
たしかに人権を否定するなどの憲法典の根本的価値規範の自殺的な改変であれば、立憲主義的だとはいえないだろう。しかし9条は国際法の遵守を通じた平和主義を達成するための規定だ、と解釈することが、憲法典の破壊につながると主張するのは、あまりにもいびつな見方である。
憲法が標榜する価値規範を信奉するのが、立憲主義だ。一部の憲法学者が主張するイデオロギー的な憲法解釈を絶対不可侵なものとして信奉するのは、立憲主義ではない。まして改憲手続きを経て改憲が成立してもなお、ただ教条主義的な護憲派だけが立憲主義者だと主張して見せるのは、まったく立憲主義的な態度ではない。
立憲民主党は、「立憲主義とは、政治権力が独裁化され、一部の人たちが恣意的に支配することを、憲法や法律などによって、抑制しようとする立場です」と説明している。それにもかかわらず、自分たちのイデオロギーだけは憲法典をも超越する、護憲派であれば独裁的であっても立憲主義的だ、と主張するのであれば矛盾だ。
立憲主義を皮相な「アベ政治を許さない」主義から解放し、より大局的な視点から普遍主義的に理解することは、政権担当能力をもつ政党に脱皮するために必須の作業である。立憲主義の理解に関しても、立憲民主党はキャスティング・ボートを握っているといって過言ではない。
(本記事は『Voice』2017年12月号、篠田英朗氏の「『護憲派独裁主義』の欺瞞」を一部、抜粋したものです。全文は11月10日発売の12月号をご覧ください)
更新:12月22日 00:05