2017年09月01日 公開
2017年09月04日 更新
中国という国の将来、その影響力を論ずるときは、経済の先行きについてしっかりした仮説・見方を持っていないと、「AとB、両極端のどちらも可能性がある」といった、焦点の定まらない内容になってしまいがちだ。
たとえば、いま世界には「中国はやがて米国のGDPを追い抜くのは確実」という見方と「早晩崩壊する」という両極端の見方がある。どちらが正しいのか、あるいはどちらも間違っているのか・・・それによって、国際政治の領域でも近未来の占い方はずいぶんと違ってくる。私はそう考えて、最近の拙著『「米中経済戦争」の内実を読み解く』(PHP新書)で下記のように論じた。
いまの中国経済は2つの異なる経済が同居する、明暗まだらの状況にある。消費、サービスの領域では新しいIT技術、シェアリングエコノミーといった新しいビジネスモデルを使った私営企業中心の「ニューエコノミー」が急速に成長している。この分野では、既に日本は凌駕されていると思った方がよい。日本国内(とくに書店の店頭など)で優勢な「まもなく崩壊」論は、中国経済のこういう明るい側面を捉えきれていない憾みがある。
一方、重厚長大・原料素材といった領域では、国有企業が中心の「オールドエコノミー」が投資バブルの生んだ過剰な設備や負債を抱えて著しい苦境に陥っており、リストラが必須である。世界で今なお優勢な「やがて米国のGDPを追い抜く」論は、この点を軽く見過ぎな印象がある。
中期的な成長の見通しは、ニューエコノミーの育成、オールドエコノミーのリストラの2面にわたる今後の改革の進捗度合いによりけりだ。前者はそこそこ進展しているが、後者は停滞というよりむしろ逆行している。国有企業が中国共産党の既得権益の核心部分だからであり、権力を確立した習近平の手でも進展は期待薄だ。という訳で、今後の経済改革は「片肺飛行」になりそうだが、それでは米国のGDPは追い抜けない。
世界では永く「中国経済楽観」論が優勢だったが、金融関係者を中心に、この1、2年で大きな変化が起きた。「目下の中国経済最大の問題は過剰債務だ」という認識が急速に拡がったのである。投資バブルの後につきものの現象であるが、この問題について、私は前掲の拙著で下記のように論じた。
我々日本人の脳裏にある「バブル崩壊」のイメージは、1990年代に目撃した不動産価格の崩落のような劇的な事態だ。だから、そんな劇的な事態が起きているようには見えない 中国は「バブルが崩壊した」という印象がない。しかし、実はバブル崩壊が起きて然るべき 状況なのだ。中国の「オールドエコノミー」、すなわち重厚長大・原料素材といった国有企業が中心の領域では、厳格な減損評価を実施していない。不動産は後述する地元政府の干渉により、値上がりしても値下がりすることがまずない。国有企業は債務不履行を起こしても、何処からか救済の手が伸びてきて、債権者が弁済を受けられる例が多い。こうして実体的には不良債権なものが、健全債権を装うことが可能になる。ほんとうに不良債権の認定を受けるのは、政府の後ろ盾のない民営企業ばかりだ。
中国経済全体のバランスシートは確実に「劣化」している。その意味で、中国経済がバブル後遺症に苛まれる時期に入ったことは疑いがない。人の身体に喩えれば、過労続きで、ある朝起きられなくなったようなものだ。こういうときは大人しく布団をかぶって安静に休養するしかない。さらに無理を重ねようとすると、救急車のお世話になる羽目になる。
更新:11月23日 00:05