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潮匡人 トランプ政権誕生で「戦後」が終わる

2017年03月03日 公開
2024年12月16日 更新

潮匡人(評論家/拓殖大学客員教授)

迫りくる危機をなぜマスコミは報じないのか

そして誰もマスコミを信じなくなった

 これで、ようやく「戦後」が終わる。そう感じさせたアメリカ合衆国大統領選挙であった。それにしてもマスコミ報道は酷い。2015年からトランプを「暴言王」の「泡沫(候補)」と扱い続け、開票当日までクリントンと決め打ちした。

 結果が出ると、自らの不明を恥じることもなく、「驚くべき番狂わせ」「土壇場の大逆転」などと報じた。なんのことはない。マスコミの勝手な思い込みではないか。象徴的な一例を挙げよう。2016年11月13日放送の「サンデーモーニング」(TBS系)で岸井成格コメンテーターがこう語った。

「トランプにだけはなってもらいたくないという、いい意味での良識が、思い込みが強くて、『隠れトランプ』を見逃したというところが大きかった」

 右の「良識」は「常識」とも聞こえたが、どちらにしても、おかしい。日本語としても、コメントとしても……。

 しかも右は、米メディアへの批判ないし分析だった。自己批判の脈絡ではなかった。いまなお彼らは〝失敗の本質〞に気づいていない。報道機関たるべき放送局が言論機関に成り果て、真実でも、事実ですらない独善を、自分たちの勝手な思い込みや主義主張を垂れ流してきたことに……。

 彼らだけではない。各局みな、自分たちの不明を棚に上げ、いまもアメリカ大統領への揶揄誹謗を続けている。

 ちなみに「誰もが予想外だった」(NHK)わけではない。投開票を目前にした2016年11月8日発売の『夕刊フジ』一面は「隠れ支持者500万人」の見出しを大書していた。

 当該記事でコメントしたのは私。2015年から「トランプ」と言い続けてきた実績から起用されたのであろう。

 だが、多くのメディアは耳を貸さなかった。私を侮蔑嘲笑した「識者」も多い。みな口を拭い、連日のように地上波各局でトランプ政権を語っている。当選の可能性はおろか、「トランプ旋風が吹く」との予測すらできなかった「識者」を、なぜかメディアは起用し続ける。『そして誰もマスコミを信じなくなった』――前著のタイトルは、米大統領選を巡る日米のマスコミ報道に見事なまでに当てはまろう。

 余談ながら、土方細秩子(ジャーナリスト)によると、インドで開発されたAI(人工知能)の「MogIA」が、トランプ当選を予測していたらしい。過去にインドでの選挙や米大統領選挙の結果も正しく予測したという(『ハフィントンポスト』)。

 デジタル時代の予測や分析は、AIの十八番でもあろう。そして誰もがAIを信じるようになった――。笑い話ではない。仮想現実の世界でもない。これは、いまリアルな世界で起きている現実だ。

 

日米同盟は「正しくない」

 以上のマスコミ批判は一部、日本政府にも当てはまる。平成28年(2016年)11月10日付『産経新聞』朝刊一面コラム「トランプ大統領で、いいじゃないか」(乾正人・東京本社編集局長)を借りよう。

《日本の外務省はまたも下手を打った。先月から今月にかけて話を聞いた高官や有力OBの誰一人として「トランプ大統領」を予測していなかった。某高官などは「接戦ですらない」とまで断言していた。外務省の楽観的な見通しも後押ししたであろう9月の安倍晋三首相とクリントン候補との会談は、失策としか言いようがない》

『産経』コラムは、こうも説く。

《トランプ流の「在日米軍の駐留経費を全部出せ」といったむき出しの本音には、日本も本音で向き合えばいいのである。/大統領になったらそんなむちゃな要求はしないだろう、という幻想は捨てなければならない。いよいよ米軍が撤退する、となれば、自衛隊の装備を大増強すればいい。その際は自前の空母保有も選択肢となり、内需拡大も期待できる。沖縄の基地問題だって解決に向かうかもしれない》

「トランプにだけはなってもらいたくない」と思い込むTVコメンテーターと「トランプ大統領で、いいじゃないか」と構える新聞人。いずれが本物のジャーナリストなのか。すでに結果は出ている。自称「良識」派らが振りまく「幻想は捨てねばならない」。

 佐藤伸行著『ドナルド・トランプ 戯画化するアメリカと世界の悪夢』(文春新書)も、こう警鐘を鳴らす。

《トランプにとっては、今も昔も安全保障は「ビジネスの種」なのである。日本に米軍駐留経費を払わせることは、「政治家トランプ」の数少ない政策の中で珍しく一貫している。/万が一、トランプが大統領になった場合、翻意を促すことは至難であろう》

 私もそう思う。トランプは政治家ではなく経営者(ビジネスマン)である。だから日米同盟を、「普遍的な価値の共有」(日本政府)ではなく、あたかも貸借対照表(バランスシート)を眺めるように考える。正邪善悪ではなく、利害得失で判断する。だから「フェアでない」(不公平)と非難してきた。

 英語の「フェア(fair)」は「公平」とも「公正」とも訳せる。定評ある『リーダーズ英和辞典』(研究社)は「正しい」の訳語を最初に載せている。トランプのいう「フェア(公平)でない」は、「公正でない」「正しくない」「不正」「不当」とも訳し得る。トランプ自身の含意はどうあれ、米国民は後者の意識を共有するかもしれない。それは日本の安全保障にとって重大なリスクとなる。私はそう警鐘を鳴らしてきた。

 念のために言えば、日米同盟が米国にとって「フェアでない」のは、日本が集団的自衛権を行使しないからである。正確に言えば、平和安全法制の下でも「存立危機事態」でしか(限定)行使しないからである。にもかかわらず、日本のマスコミはNHK以下「集団的自衛権の行使を可能とする安保法制」と報じ、トランプに「暴言王」のレッテルを貼ってきた。いまなお自分たちが何を間違ったのか、気づいていない。

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