Voice » 地域再生 » 遠藤功 五能線に学ぶ地方創生とは

遠藤功 五能線に学ぶ地方創生とは

2016年08月23日 公開
2017年05月13日 更新

遠藤 功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

「真珠の首飾り」で地方は元気になる

「広域観光」への広がり

 今年7月、『五能線物語 「奇跡のローカル線」を生んだ最強の現場力』(PHP研究所)を上梓した。廃止の危機まで囁かれていた赤字ローカル線が「日本一乗りたいローカル線」へと変身することに成功した、その25年にも及ぶ物語を追った本である。いまでは年間10万人以上が快速列車「リゾートしらかみ」に乗車し、観光シーズンにはチケットが入手困難になるほどの人気路線となっている。

 しかし取材を進めるうちに、五能線の再生はたんなる一ローカル線の成功物語に留まらないことに気付いた。五能線という路線が人気になることによって、沿線各地の土地の魅力が掘り起こされ、それらの魅力がつながり、より大きな価値のある「広域観光」へと広がっているのだ。

 鉄道会社だけではなく、地元の自治体や企業、住民が連携し、五能線を核としながら、観光客の誘致をたんなる「点」に終わらせず、「線」や「面」へと広げることに成功している。しかもその取り組みを地元の人たちが主導し、ボトムアップ型の地道な努力と創意工夫を積み重ねて実現することで、地域の活性化、生き甲斐の醸成にもつながっている。

 観光立国・日本をめざす大きな流れのなかで、地方創生の1つのモデルがここにある。五能線はなぜ成功し、地域全体に大きな影響を与えることができているのか。そのKSF(Key Success Factor=成功の鍵)を探ってみたい。

 

自分の足で立つ

 地方創生の原点は「地方の自立」にあるはずだ。地方を再生する過程でのさまざまな援助、協力は必要であるが、地方創生において何より大事なのは「自分の足で立つ」地方を創り出すことである。安易に中央に依存するのではなく、自分たちでできることはすべてやり切る。その姿勢が地方創生のベースになくてはならない。

 よく「町おこし」「村おこし」の話になると出てくるのが「よそ者、若者、ばか者」という言葉だ。外部の視点をもち、客観的な見方ができる「よそ者」、エネルギーに溢れ、チャレンジできる「若者」、信念をもち、実現のためにのめり込むことができる「ばか者」。これら3つの人材がいないと地域おこし、地方創生は成功しない、と指摘する声は多い。

 たしかに「ばか者」は必要である。地域おこしのためにのめり込む大きな情熱をもつ人がいなければ、地方創生はありえない。

 しかし、「よそ者」「若者」の存在は必ずしも不可欠ではない。「よそ者」と「若者」が揃わなければ地方の活性化はできない、と杓子定規に考えることはとても危険だ。

 五能線を観光路線として再生させ、13もの自治体が1つになりながら「広域観光」による活性化を主導しているのは、JRや自治体、地元企業に勤めるおじさんやおばさんたちである。彼らは決して「ホームラン」を狙わずに、こつこつと「ヒット」を積み重ねていく。みんなで知恵を絞り、できることを片っ端からやっていく。

 小さなアイデア、努力が積み重なることによって五能線は再生を果たし、北東北は人気の観光エリアになった。地方の自立において何より大事なKSFは、自分の足で立とうとする「精神の自立」である。

 

次のページ
「真珠の首飾り」をつくる >

著者紹介

遠藤 功(えんどう・いさお)

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。経営コンサルタントとして、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。ローランド・ベルガーワールドワイドのスーパーバイザリーボード(経営監査委員会)アジア初のメンバーに選出された。株式会社良品計画 社外取締役。ヤマハ発動機株式会社 社外監査役。損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社 社外取締役。日新製鋼株式会社 社外取締役。コープさっぽろ有識者理事。『現場力を鍛える』『見える化』(以上、東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)など、ベストセラー著書多数。

Voice 購入

2024年12月

Voice 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):880円