2011年07月20日 公開
2024年12月16日 更新
7月14日、菅総理肝いりの「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案(以下、再生可能エネルギー買取法案)」が衆議院本会議で審議入りしました。13日の首相会見では、エネルギー政策について「脱原発依存」への転換が表明されました。この法案が成立すると、電力市場にはどのような影響があるのでしょうか。
再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱等といった自然環境から持続的に得られるエネルギーをいいます。再生可能エネルギー買取制度は、国が定めた一定の期間と価格で、再生可能エネルギーで発電された電力の全量買取を電気事業者に義務付けます。買取期間は、発電設備の設置から設備更新が必要になるまでの期間として、最大20年になる予定です。また買取価格は、太陽光以外の発電が1kwhで15~20円、太陽光発電はこれよりも高く設定される見込みです。
再生可能エネルギー買取制度の導入は、昨年6月に閣議決定された「エネルギー基本計画」と「新成長戦略」で示されました。これらの計画において、政府は再生可能エネルギーによる発電の拡大を図り、地球温暖化の防止、エネルギー自給率の向上、エネルギー源の多様化、環境関連産業の育成などを目指していました。
東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故を受け、電力源の分散化が求められています。「電力調査統計」(資源エネルギー庁)によれば、平成23年4月の原子力発電量は約180億kwhであり、総発電量の28%を占めています。一方、再生可能エネルギーの発電量は約57億kwh、総発電量の9%程度です。菅総理は、2020年代前半までに再生可能エネルギーの発電量割合を20%超に引き上げようとしています。
その一方で、再生可能エネルギー買取法案の成立によって、電気料金の値上げは不可避になります。各電力会社は買取費用を使用電力量に比例した賦課金(サーチャージ)として電気料金に転嫁できるからです。また、福島第一原発事故の賠償金確保のため、東京電力などは料金を値上げすることも予想されます。民間事業者が生産コストの上昇を嫌って、国内拠点を海外に移転するかもしれません。電力利用における国民負担の「極小化」が検討されるべきです。
さらに、「費用負担調整機関」が設置されます。この機関は賦課金の地域間格差を是正し、賦課金を全国一律にします。この結果、電気料金の決定は複雑になります。需要者は電気利用に応じた料金を正確に把握できず、電力利用時における受益と負担が不明確になるのです。つまり、再生可能エネルギー買取制度は、電力市場の価格メカニズムを歪める恐れがあります。
なお、再生可能エネルギー買取制度は3年ごとに見直され、2020年度には廃止を含めた制度の再検討が行われます。電力市場の正常化に向けて、再生可能エネルギー制度における買取価格と期間について、法案成立後も慎重な検討が求められます。
再生可能エネルギー買取制度の導入によって、わが国の電力市場のあり方が活発に議論されることを期待したいと思います。
(2011年7月19日掲載。*無断転載禁止)
更新:12月28日 00:05