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感染者数は最大150万人…オリンピックを悩ませた"ウイルスの脅威"

2016年05月12日 公開
2023年01月12日 更新

岡田晴恵(白鴎大学教授)

 

21世紀の感染症のリスクとは

2016年8月にはリオ五輪が開催され、世界中から夥しい数の人びとがブラジルを訪れる。多数の日本人も観戦するであろう。

南半球にあるブラジルでは、オリンピック開催期間は冬季にあたるが、最高気温28℃、平均気温は23℃と、ジカウイルスを媒介するネッタイシマカが十分に活動できる気候にある。さらに北半球は夏であるので、輸入感染症として国内に持ち込まれた場合には、日本では蚊の活動期にあたる。

とくに妊娠初期、または妊娠の可能性のある女性には、ジカ熱の発生・流行している国への渡航を控えるか、出かける場合には蚊に刺されないように自衛していただきたい。

男性においても感染予防を徹底し、帰国後のコンドームによる感染予防を徹底し、妊娠を望む女性は、流行地から帰国した場合には、2カ月以上を経過してからとすることが大切である。

先天性ジカウイルス感染症では、重度の小頭症から軽度の神経系異常までさまざまなケースが起こっていると考えられる。今後、この子供たちのフォローアップから多くの知見が集積され、この疾患の全体像が明らかとなってくるであろう。

 そして、この子供たちへの長期にわたる医療や生活の支援等も開始されなければならない。現地の国々はもとより国際的な支援(とくに予算)をどのように行なっていくかが大きな課題となる。

 一方、現時点でのジカウイルス感染への対策としては、蚊に刺されないようにする消極的な防護戦術が基本となっている。抗ウイルス剤やワクチンの開発が焦眉の緊急課題となっているが、ウイルスを媒介する蚊を撲滅することが根本的な解決であろう。これは、ジカウイルスのみならず、他の多くの昆虫媒介性ウイルスの制圧にも期待できる。実際、有効で安全な殺虫剤の開発と広範囲での活用や、子孫を残せなくするように遺伝子を組み換えた蚊を作製し、流行地域に放つ戦略も検討されている。地球上から蚊を根絶しても、人類を取り巻く生態系にはマイナスの影響はないと判断されているようではあるが、過去の多くの教訓に基づいて、その功罪に対する検討 と事前評価を慎重に行なうべきである。

 また、現時点では、ジカウイルスの動物感染モデルが存在しないので、感染発症病理機構の解析には限界がある。抗ウイルス剤やワクチンの開発研究と安全性・有効性の評価には、適当な動物感染モデルが必要なので、その開発・確立が強く望まれる。

 このままジカウイルスが拡大を続ければ、日本を含む多くの国々で、次世代の子供たちと社会に大きな打撃を与えることとなる。本稿が掲載されてすぐの5月には、日本でも平均気温が10℃を超え、ヒトスジシマカや国内に広く分布するイエカの仲間(これもジカウイルスを媒介する可能性が指摘されている)も羽化の季節を迎える。防蚊対策を中期的戦略で推進するとともに、多くの情報を国民と共有し、効率のよい事前準備と対応計画を早急に実施しておく必要がある。

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