2015年10月29日 公開
2024年12月16日 更新
取材/構成 清水泰(フリーライター)
——東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、訪日外国人観光客の増加が見込まれています。ダニエル・カールさんのように日本で暮らす在留外国人も200万人を超えました。さまざまな国の方を受け入れるにあたり、日本人と日本社会はどんな対応を心がけるべきでしょうか。
ダニエル ありのままの日本人を見せることが1番の対応でねえかな。外国人観光客のために特別なことをする必要はないと思う。それくらい日本人が日常生活で普通にしている行動とかマナーは、外国人から見ると「特別待遇」のおもてなしだから。皆さん、感動するよー。
たとえば接客は「お客さんファースト」が徹底しているし、人間関係や街中では「先輩・年輩・目上ファースト」の緩いマナーもある。欧米的なレディーファーストのマナーが足りないという意見はよく聞くけれども、レディーファーストが世界標準の正解とはいえないし。日本人はドアの開け閉め、エレベーターの乗り降りとかでレディー、お客さん、先輩の誰を優先するかその都度、臨機応変に対応するんですから感心するなあ。たまにイベントや祭事で女性用トイレが大行列だと、男性のほうが譲って男性用を使わせてあげるし(笑)。でも、山形で初めておばちゃんがトイレに駆け込んできたのに出くわしたときはたまげたなー。唯一、東京の電車ホームのアナウンスは好きでねえけど。あれ、かすますい(やかましい)!「危ないですから白線の内側にお下がりください」とか余計なお世話でねえかと(笑)。
おらが「すげえなぁ」と思うのは、通りすがりの人に道を尋ねたとき。「この建物どこだかわかりますか」と聞いて、道順が複雑だったりすると、その人が先導して目的地まで連れていってくれることです。30年以上日本で暮らしているけど、いまでも感動しますね。おらが外国人だから特別親切にしてくれているわけではないんですよね。東京に住む日本人同士でも普通に先導して案内してますから。感覚的には、田舎の山形から久しぶりに東京に出てきた人に見せる優しさ、親切心のモードで外国人観光客に接すればいいと思うんです。
——言葉の問題についてはどう対処したらよいのでしょう。
ダニエル バイリンガルの専門家はしかるべきところで育てられるから、一般の日本人がそれほど心配することはないんでねえかな。それにスマホが普及して、ITの世界では音声翻訳の技術開発が進んでいるから、外国人がしゃべった母国語を日本語に訳したり、その逆もしかりで自動翻訳や通訳アプリの精度・スピードもいまより上がっていくでしょう。東京オリンピック・パラリンピックという具体的な目標があるから、日本メーカーのアプリ開発や作り込みも急ピッチで進むはず。
——オリンピックだからといって特別な対応は不要ということですが、嫌煙派の一部は「(近年の)歴代開催都市には、すべて罰則付きの受動喫煙防止条例が整備されている」と主張し、東京都には飲食店や宿泊施設を含む公共的施設に禁煙や分煙を義務付ける都条例の制定を強く求め、国には罰則付きの「受動喫煙防止法」(現行の「健康増進法」では受動喫煙防止対応は努力義務)の制定を要望しています。
しかも日本では、すでに路上喫煙禁止条例が都市部を中心に各地で制定され、屋外での喫煙規制が進んでいます。外国では原則自由に吸える屋外での喫煙規制に加えて、屋内の全面禁煙まで求めるというのは世界でも例のない厳しさです。アメリカの現状を教えてください。
ダニエル おらが個人的に知る限りの範囲でいうと、ほとんどの州で公共施設内は禁煙ですね。アメリカには年に1、2回くらい行くんだけど、最近はレストランや飲み屋で喫煙している人を見なくなりました。ただ、連邦法での規制ではなくて、州法の規制です。1960年代、70年代まではレストランで子供のおらを連れた爺ちゃんも葉巻を悠然と吹かしていたから、いまみたいな喫煙規制なんてなかった。
州単位で公共施設内を禁煙にしたのは1990年代のカリフォルニア州が最初で、多くの州に広がったのは21世紀に入ってから。だいたいアメリカでは、こういう新しい風潮は西海岸と東海岸の大都市から始まるんです。公共施設内が全面禁煙のカリフォルニア州でも、たばこの火の危険を避けるために、建物の出入り口とか開く窓から数メートル離れたところで吸う、といった規制はあるんだけど、基本的に路上喫煙はOK。サンフランシスコでもビルとビルの隙間の路上で吸って、日本人と違って携帯灰皿をもたないから、ポイ捨てする光景をよく目にしました。
——昨今の喫煙規制の風潮をどう思われますか。
ダニエル ちょっと行き過ぎでないかな。少しバランスを欠いていますよね。いつの間にかヨーロッパも屋内禁煙になっていて、パリの路上でもサンフランシスコと同じ光景を見ました。日本語に「十人十色」という四字熟語があるように、人それぞれの好み、嗜みは違います。たばこを吸う人も吸わない人も、お互いの違いを認め、それぞれの好み、嗜みを尊重するのが人権の考え方で、平和な社会の大本でねえかと。喫煙率が下がったとはいえ先進国にもたばこを吸う人はたくさんいますし、世界にはまだ喫煙率の高い国・地域がいくつもあります。たばこを吸う人の権利も大切だし、吸わない人やたばこの臭いや煙を遠ざけたいという人の意見も尊重せねば。いまはたばこを吸っていないけれども、かつては喫煙していたので、両方の気持ちがわかります。
アメリカでは1本も吸ったことはなかったんですが、1980年代初めに山形県で働くようになって、周りの人はみんな吸っている。おらと上司以外、机の上には灰皿が置いてある。それで吸い始めたんです。たばこをやめたのは50代になってからだけれども、その間も子供の目の前では絶対に吸いませんでした。
あと、おらの奥さんはたばこの臭いが嫌い。分煙しているレストランでも、喫煙席に近い禁煙席に案内されると怒るくらい。そこで「和の精神でちょっとは我慢しようよ」とアメリカ人が日本人にいうんです(笑)。おかしいでしょう。普通は逆だけれども、結局は夫婦間の平和を守るために、おらが折れて「もうちょっと遠い席にお願いします」と店員にお願いすることになるんです。
——たばこの臭いや煙を遮断するエアカーテンや煙を吸い込むダクトなどの分煙技術・設備も進化していて、その最先端を行くのが日本です。
ダニエル 吸う人と吸わない人の平和的共存は法律で厳しく規制しなくても、喫煙マナーや物理的・経済的・技術的な要素で十分対応可能。だからおらは分煙が正しい考え方だとずっと思っていて、分煙が可能な施設には、建物内のどこかに喫煙ルームやスペースを設ければいいんでないか。設置費用が掛かりすぎるというのであれば、極端な話、屋上でも構わない。
たとえば、いまなら電子タバコだってあります。吸ったことはないんだけれども、臭いや煙はほとんど出ないそうだね。
更新:12月26日 00:05