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復興財源は世代間負担も考慮せよ

2011年06月15日 公開
2023年09月15日 更新

宮下量久(政策シンクタンクPHP総研研究員)

 6月11日、政府の東日本大震災復興構想会議(以下、復興会議)で、6月末に総理へ答申される第一次提言の素案が議論されました。第一次提言には、増税を含めた復興財源について記載される見込みです。被災地復興を着実に進めるために、復興財源はどのように確保されるべきなのでしょうか。

 5月に成立した平成23年度第一次補正予算では、東日本大震災からの早期復旧に向けた経費として約4兆円が計上されました。第一次補正予算の財源は、追加の国債発行をせず、歳出の見直しや年金財源の転用から確保しました。震災から3ヶ月を迎え、復興のための財源が必要になっており、第2次補正予算では10~15兆円程度に上るとの報道もあります。

 このため、政府は復興財源の確保について検討し始めました。国会審議中の復興基本法では、復興債という国債の発行による財源確保が示されています。復興債とは、建設国債や赤字国債といった通常の国債と区別して、使途を復興政策に限定する国債です。国及び地方の長期債務残高は平成23年度末に約892兆円となり、GDP比では184%に達する見込みです。政府は、復興債発行による長期債務残高の増加から、国債の信認低下につながることを危惧しています。復興会議の第一次提言素案では、「マーケットの信認を確保する観点から、復興支援策と同時にその財源措置を決定」と記されました。

 また、復興債の償還について将来世代に財政負担を転嫁させない仕組みづくりが議論されています。第一次提言の素案には、「先行する復興需要を賄うために国債を発行する場合には、償還財源を担保」と記載されています。さらに、十分な償還財源を確保するため、所得税や消費税などの基幹税を増税することも明記されています。将来的な社会保障費の増加を見越して、復興財源について期限付きの増税で確保することが議論されていると思われます。

 しかし、復興財源の大部分は世代間で負担すべきものです。今回の大震災は百年に一度起きるかどうかの大災害といわれています。つまり、復興財源は百年に一度の支出に使われるのです。特に、公共施設や道路・港湾などの社会資本インフラは世代を超えて活用されるため、世代間で費用負担していくことも本来検討されるべきでしょう。

 約16~25兆円とされる直接的被害額(内閣府試算)のうち、弊社の試算によれば(※)、社会資本復旧などに10兆円規模の公的財源が必要になります。仮に、現世代だけで復興財源として10兆円を確保しようと増税すれば、経済活動の維持に悪影響を及ぼすと思われます。ところが、建設国債の償還期限である60年を復興債の償還期限として考えるなら、単年度での償還額は基幹税の増税をせずに、経済活性化による税収増加や歳出の見直しなどで十分に賄えると思われます。充当する歳出の性格に応じて、復興債の償還期間を複数設定することで、短期間での大増税を回避できる可能性もあるのです。

 復興財源の負担が現世代だけで過大にならぬよう、復興会議の議論を注視していきたいと思います。

※参考文献:PHP総研/「東日本大震災からの復興に向けた第一次提言」(2011年4月12日)

(2011年6月13日掲載。*無断転載禁止)

 

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