2011年08月10日 公開
2023年09月15日 更新
7月29日、「東日本大震災からの復興の基本方針」が閣議報告され、10年間で「少なくとも23兆円程度」の復興事業を行うことが示されました。これに先立つ復興構想会議の提言においては、財源は復興国債を発行し基幹税をその償還財源とすることが示されていましたが、基本方針では増税については「時限的な税制措置」とし、明記していません。国債か増税か、税目は何か、償還期間は何年かなど専門家の間でも議論百出していますが、財源について議論が収束しない原因は何なのでしょうか。
政府が財源を確保する場合、増税を行うか、国債を発行することになります。そもそも、国債発行が是認される場合は、理論的には二つに整理されます。
ひとつには、社会資本を整備する場合です。道路などの社会資本は、現在の世代だけでなく将来の世代も便益を受けます。よって一時的な増税財源で整備するのではなく国債を発行し、将来世代も広く負担することが容認されます。これは建設国債として、60年かけて償還することになっています。
もうひとつは、一時的なショックに対応する場合です。大災害などで一時的な復旧や生活支援に資金が必要になった場合、単年度に大きな増税を行うと経済に大きな影響を与えてしまいます。このような場合、国債の発行によって財源を調達し、将来世代にわたって広く薄く国民が負担することが、経済全体への影響を和らげることが知られています。
以上の二つに当てはまらない場合、原則として国債発行によって将来世代へ負担を求めることは正当化されないと言っていいでしょう。
それでは、今回の大災害に対しては、どのような財源を充てればよいのでしょうか。内閣府の6月24日に発表した推計によれば、東日本大震災の被害額は総計で16.9兆円です。そのうち社会資本は、水道、ガス、電気などライフライン施設等の1.3兆円、河川、道路、港湾など社会基盤施設の2.2兆円、農地・農業用施設等の農林水産関係で1.9兆円、その他公共施設などの1.1兆円で、合計6.5兆円です。
つまり、建設国債の発行によって復旧させるべき社会資本は、6.5兆円を超えないのです。残りの住宅や工場など10.4兆円のほとんどは民間のものなので、原則として公共投資の対象にはなりえません。
では、民間の被害に対しては、どのような支出と財源を考えれば良いのでしょうか。
基本方針では、実施する施策として防災、教育振興、文化振興、新産業育成、原子力災害復興などを網羅していますが、それらの具体的な内容や事業規模について記載がありません。被災地にどの程度の公共施設を整備するのか、被災者にいくら給付を行うのかが、明確でないのです。
これらの事業は、将来世代に便益をもたらす公共投資なのでしょうか、それとも被災者に対する一時的な支援なのでしょうか。基本方針からは読み取れません。
事業内容が決まれば、それに対応する財源を議論することができます。「増税か、国債か」、という財源の議論をする以前に、復興事業の内容と個々の予算額を決めることが必要といえます。一刻も早く復興事業の具体的全体像を示し、本当に必要なものに絞り込んだ上で、財源について議論を進めるべきといえます。
(2011年8月8日掲載。*無断転載禁止)
政策シンクタンク PHP総研 Webサイト【http://research.php.co.jp/】(PCサイト)
政策シンクタンク PHP総研の最新情報はメルマガで⇒【http://research.php.co.jp/newsletter/】(PCサイト)
更新:11月22日 00:05