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「東日本大震災復興特別会計」を創設すべし

2011年04月20日 公開
2023年09月15日 更新

宮下量久(政策シンクタンクPHP総研研究員)

 4月14日、東日本大震災の復興ビジョンを描く復興構想会議(議長・五百旗頭真防衛大学校長)の初会合が開かれました。この中で、五百旗頭議長は復興財源として公債発行のほかに「震災復興税」の創設が不可欠であるとの見解を示しました。また、与野党では平成23年度第1次補正予算の復興財源についての議論が大詰めを迎えています。復興財源を検討するうえで、どのような点が考慮されるべきでしょうか。

 報道によれば、第1次補正予算は総額4兆円規模になる見込みです。この予算額に見合う財源確保の調整が難航しています。国及び地方の長期債務残高は今年度末で892兆円、GDP比では184%になる見通しです。このような厳しい財政状況を踏まえ、政府・与党は、復興財源確保のための新規国債発行には慎重な姿勢を見せています。また、早期増税による歳入確保も、景気をさらに悪化させる可能性があることから、見送られる公算が大きいと思われます。

 新たな歳入確保が難しいなら、これまでの予算を大幅に見直して、削った分を復興財源に充てる必要があります。予算見直しの対象として、子ども手当て上積み分で0.2兆円、高速道路無料化社会実験で0.1兆円、高速道路料金割引で0.25兆円、ODA予算の20%程度縮減で0.1兆円、経済予備費の調整で最大0.8兆円などが検討されています。しかし、これらの合計額は1.5兆円程度にしかなりません。第1次補正予算の総額4兆円から1.5兆円を差し引いて、残りの2.5兆円が不足しているのです。

 そこで、新たな財源として年金財源の転用が政府・与党で議論されています。年金財源に占める国庫負担の割合は、平成21年度から2分の1に改正され、今年度予算の国庫負担は約10兆円になります。このうち、2.5兆円を復興財源に充てるため、年金財源への国庫負担率引下げを検討しているのです。

 ところが、年金財源を復興財源に充当しても、かえって年金財政の不安定化を招く恐れがあります。結局、公債発行か増税によって、年金財源を確保せざるを得なくなります。つまり、財源確保の目的が、被災地復興から年金財政の安定化に変わるだけなのです。このような結果になるなら、初めから復興のための公債発行や増税を検討すべきでしょう。

 これらの問題を避けるため、復興予算は既存の予算と分けて考える必要があります。その具体策として、「東日本大震災復興特別会計」の新設が考えられます。特別会計のメリットは個別政策における受益と負担を明確にすることです。特別会計の導入によって、復興予算の透明性を確保することになります。また、従来からの長期債務問題と切り離すことで、復興を理由にした財政再建の先送りもできなくなります。

 復興政策を迅速かつ大胆に実行するために、従来の財政運営と切り離した財源確保の議論が進められることを期待したいと思います。

(2011年4月18日掲載。*無断転載禁止)

 

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