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今だから話そう、大震災のあの時あの現場―【第23回】

2014年05月19日 公開
2022年12月08日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

《政策シンクタンクPHP総研 研究員コラムより》

 

【第23回】押し寄せるNPO、ボランティア

 震災後はじめて迎えたゴールデンウィークには、県内外から多数のボランティアが被災地を訪れてくれていた。水産加工場の冷凍庫から流れ出した数万尾の魚を拾い集める学生たちは、すでに腐敗が進んでつかみづらい上に、ゴム手袋を二重にしても手に染みついてくる臭いと格闘していた。この機会を捉えて里帰りした人たちは、故郷の惨状を目の当たりにしながらも、自分に何かできることはないかとさまざまな動きを見せていた。

 ただ、受け入れる現地サイドは、「こんなところまでありがたいことだ」と感謝しつつも、戸惑いの色を隠せない様子だった。そもそも、このあたりは都市部に比べて行政や社会福祉協議会(社協)に対する信頼や依存度が高く、NPOや市民ボランティアに対するなじみが薄い。なかには、外部者に対する警戒感が非常に強くて容易に出入りできず、一言二言会話するのがやっとというような集落もあった。

 そんなところに、ここぞとばかりに知らない人たちが入れ代わり立ち代わり押し寄せてきたものだから、地元の人たちも対応に苦慮していた。まったく知らない団体が突然に、しかも大量に訪れるので、同じことを何度も説明しなくてはいけない。いろいろな団体が声掛けをしてくれたり、物資を届けたりしてくれているが、来る人が毎日違うので人疲れしてしまう。被災者との窓口になってくれるような代表者をおいて、地元との応対を一元化して欲しい。被災者の方々の声を聞くと、ボランティア対応のストレスも相当に蓄積しているようだった。

 本来は司令塔の役割が期待される社協も、このときはまだ多くが混乱の渦中にあった。職員自身もまた被災者であり、精神的にも肉体的にもギリギリの状態で運営にあたっている。力量のある県外のNPOに任せるのが合理的だと思っても、住民感情や大規模な活動のリスクを考えると、それでいいものかという迷いが消えない。この50日間で一番辛かったことは、五月雨式にやってくる外部支援者からのアドバイスや提案、評論だ。彼らの悩みもまた、地域の実情に真摯に向き合おうとしているからこそだと思われた。

 支援に訪れたNPOやボランティア団体にとっても、十分な活動をしようとすればするほど、山積みの課題にぶつかる状況だった。必要な情報はいまだに集約化・一元化されず、現場に赴くと聞いていた事情と異なるケースが非常に多い。被災地が広く、かつ小さな集落が点在しているため、地元の協力を抜きに独自行動するには限界があるにもかかわらず、要となる協力者を得ることすらままならない。どうしたらよいものかと、頭を抱えている団体も少なくなかった。

 沿岸部の中では比較的機能している気仙沼市のように、地元の社協と外部のNGO・NPOとの共同でボランティアセンターを構成し、情報収集と支援活動の拠点となるようなかたちを整えられたら良いのだけれど。

 震災ボランティア連携室へも伝えて善後策を検討して欲しい、とレポートしている私も、この時は体力・気力がすり減っていたのだと思う。この状況を体感しておいた方がいいだろうと家族を呼び寄せたのだが、自分自身が日常を取り戻したかったからに違いない。途端に発熱し、声が出なくなり、2日間寝込む。心身ともに緊張から解きほぐされた自分を感じて、私は高熱にうなされながら苦笑いするばかりだった。

 そんなとき、旧知の衆議院議員から電話が鳴った。兄のオフロードバイクに2人乗りで、三陸沿岸を南下して見てきました、と。無茶するなあ、と笑いながら迎えると、「熊谷さんの言う通り、地元になるべく迷惑をかけないように、足も宿も食事も自己調達で、できるだけ被災地の実態をつかまえようと思って」と言う。いま必要なのは、この機動力と、この情熱なんだよな。せっかくだからと細かなところまで案内し説明している私は、現職代議士とか前政務官とかいう衣は脱ぎ捨てて現場に来てくれた彼を、とても誇らしく思っていた。

(つづく)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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