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今だから話そう、大震災のあの時あの現場-【第16回】

2014年03月20日 公開
2022年12月08日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

【第16回】ついにきてしまった最大余震 

 あの日以来、体感余震は何度となくあったが、こんな凄まじい揺れは感じたことがない。リビングボードとテレビを支える私をあざ笑うかのように、食器は飛び出して割れ、停電によって暗闇に襲われる。もし、震災が真夜中に起きていたら、どれほどの被害になっていただろうか。そんな懸念が、現実のものとなってしまったのかと思うと同時に、どの順番で何をなすべきか、必死で頭をめぐらせていた。

 家の片付けは両親に任せ、急いで防災服に着替え、携帯電話と衛星電話を持って外に出た。と、ほぼ同時に携帯が鳴る。官邸からの電話だった。私は、そこで感じられるあらゆることを伝えることにした。

 市内は全戸停電。非常用電源で、県立病院と市役所、警察署が明るいのは確認できる。防災無線で津波注意報の発令が伝えられるが、宮城は警報発令されているから大船渡も警報並みの対応を、と呼びかけられている。火災が発生しているのが見え、消防車のサイレンの音が聞こえる。高台に向かう車のヘッドライトが連なって見える。いま自分のいる場所から市役所へは浸水地を横断しなくてはならないが、急いで向かって状況確認に努めたい、と。

 「何より自分の安全を最優先に行動するように。その上で、いつでも連絡をとれる状態にしておくように」

 電話を切る間際の私へのメッセージは、何気ない、当たり前のひと言だったのかもしれない。でも、その言葉が、少し慌て気味の私を冷静にしてくれた。津波に注意しながら迂回するルートを探して行きます、と告げながら、私は長い夜になることを覚悟していた。

 その後の状況については、翌日になって対策本部と官邸に送ったメールが詳しい。概要を以下に載せておきたい。

○4月8日10:00現在、大船渡市内の状況について

【全般】

・全体的に大きな被害・事件・事故等は見られない。

・火事は昨夜の1件のみ。

・負傷者等の救急搬送は数件あったものの、今のところ死者・重傷者の情報はなし。

【ライフライン】

・電気は全戸停電。非常用電源は県立病院ほか数件のみ。

・水道は各所で断水、漏水も多し。使用可能なところも電源が続く限りか。

・ガスはプロパンガスのため影響なし。ボンベの倒れているところは事業者が強制回収。

・携帯電話は、基地局の非常用バッテリー切れのためか、圏外になる地域が増加。

【交通】

・信号が機能しないため各所で渋滞やトラブルが発生。

・他県警からの応援部隊が交通整理に出ているものの、対応に欠ける交差点あり。

・通常営業を始めていたガソリンスタンドは、ほとんどが休業に。

・土砂崩れや落石、電線の垂れ下がりが各所で発生するも、 犠牲者や大きな混乱は見られない。国道事務所や職員等が適切に対応している。

【避難所】

・市内の避難所において負傷者および施設被害はなしとの報告。

・体調不良を訴え救急搬送された方があったが、生命に別状はない模様。

・夜間に暴動発生との通報あり、警察とともに現地に向かったが、ただの夫婦げんかで解決済み。

【市民生活】

・屋根瓦の崩落、屋根ずれの家屋多数。修理のため屋根に上っている人が多いため、転落防止や余震警戒の注意喚起を行っている。

○同日14:00現在、大船渡および陸前高田市内の状況について

・地元の人々の声は、ほとんどが震災直後の4週間前に戻ったような感じ、と。

・避難所やライフラインが依然として途絶していたところは、いい意味で変化に乏しいため、特に混乱は見られない。

・むしろ、ライフラインが復旧していた地域において、買いだめや交通渋滞の増加、当惑の様子が見受けられる。

・水道はポンプの電源切れ等のため、徐々に止まってきている。

・携帯の通信可能エリアは、ドコモはかなり限定的。auやsoftbankは比較的通話可能エリアが広い模様だが、これは利用者数・通信数による非常用電源の消費量に関係するのではないかと推測。

○同日22:00現在、大船渡市内の状況について

・16:00頃から、市内の一部地域において通電が回復。東北電力の尽力によって、徐々に復旧の範囲が広がっている。

・20:00頃から、ドコモの基地局も機能を回復し始めた。回線状況は安定しないものの、メールなら何とか、という状況。

・昼過ぎ頃には、避難所に避難する世帯も各所で見受けられたが、電気の復旧にともなって自宅に帰り始めている様子。

 以上が、東京へ送り届けたメールの一部である。

 市民生活も、行政対応も、日常を取り戻しつつあった中での最大余震。津波の心配がなくなった深夜1:00以降は、最悪の事態は免れることができたと安堵する様子が見受けられた。震災の教訓が身に染みついているからこその対応も、随所に感じられた。だが、それは同時に、また震災直後の状況に連れ戻されることがあるのかもしれないのだと、その恐怖とつきあい続けていかねばならないのだと、改めて思い知ることでもあった。

(つづく)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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