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虐待防止策のフォローアップを

2013年11月28日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研国際戦略研究センター主席研究員)

亀田徹

 本年も11月は児童虐待防止推進月間とされていた。小さな男の子の後ろ姿が印象的な児童虐待防止のポスターを学校や公共施設などで見かけることがあった。

 児童虐待事件が報道されるたびに、二度とこうした事件が起きないよう願う人が多いに違いない。厚労省が把握した虐待死事例は平成23年度間で56例あったとされる(心中事件を除く)。死亡などの重大事例については、「死亡した児童の視点に立って発生原因の分析等を行い、必要な再発防止策を検討する」ため、児童虐待防止法は、国および自治体に事例の検証を行うことを義務づけている。

 けれども、自治体が作成した検証報告書のなかには「抽象的な記述に終始しているもの」があると国の社会保障審議会は指摘する。たとえば、「ケースワーカーの育成及び資質向上に努める」ために「従来の研修の効果を改めて検証し、研修体系を見直す」というあいまいな記述にとどまっている報告書がある。ケースワーカーのどういった能力を高めるために、どのような研修を行うべきかを提言しなければ、具体的な改善にはつながりにくい。

 あるいは、「子どもが学校に登校していないことを把握し、連絡しても親が動かない場合、学校はどのように対応すればよいか課題である」としたうえで、「学校が保護者の意に関わらず通報する場合など、関係機関とどのように連携し、対応していくか検討が必要である」とするのみで、具体的な改善策を述べていない報告書もある。

 さらに、せっかく改善策を提言しても、それが十分活かされなかった例もあった。

 埼玉県では、平成22年の検証報告書において、「虐待の危険性を判断する指標」に関し、「『ネグレクト』の危険性を判断する項目が少ないため、『ネグレクト』に関する部分を強化するための改訂を行う」ことを提言した。

 だが、平成24年の同県の検証により、「同様の事案に関する検証委員会の提言を受けて改訂された県のリスクアセスメントシートが市には活用されていなかった」との実態が明らかになった。改善策が実行されなければ提言の意味がない。こうした状況を受け、「検証結果がどのように市町村及び県で対策として実施されているか検証委員会に取組状況を報告すること」を同委員会は改めて提言している。

 これまで多くの検証が行われてきた。国および自治体が行った検証結果は、「子どもの虹情報研修センター」のホームページで見ることができる。23年度は17報告書、24年度は21報告書が掲載されている。これらの報告書を読むと、改善策の具体化とその実行は、多くの自治体に共通する課題であることがわかる。

 改善策の具体化と実行を促す方策を講じるべきだ。

 方策のひとつとして、検証に関する自治体間での情報集約の場を、国が主導して設置してはどうか。これまでの検証報告を分析し、課題や改善策が具体的に記述されている例やそうでない例を示すことで、記述の具体化のレベルについて共通理解をはかることができるだろう。

 改善策の実行を促すには、フォローアップが不可欠だ。実際、自治体や関係機関に取組状況の報告を求める検証委員会もある。ただし、社会保障審議会のまとめによれば、検証を行った自治体のうち提言に対する取組状況を公表しているのは4自治体にすぎず、13自治体は取組状況を公表していないとのことであった(平成22年度)。フォローアップの徹底をはかるため、自治体においては、提言に基づいてどのような改善策を実行したかの取組状況を検証委員会に報告し、公表することが望まれる。

 虐待事件は相次いでいる。再発防止は大きな課題だ。検証作業には相当の時間と手間がかかるのはたしかであるが、子どもの安全をより効果的に守るために事例の検証は欠かせない。

 児童虐待防止策の具体的な改善につながる検証とそのフォローアップを関係者にお願いしたい。

(PHP総研 研究員コラムより)

 <研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク

 

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