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「日本の私大は200校しか残らない」神奈川大学が挑む教育・研究改革

2026年10月20日 公開

戸田龍介(神奈川大学学長)

戸田龍介氏

2026年、財務省が「私立大学250〜400校程度削減」を公表。少子化・グローバル化の流れのなか、日本の大学はどうすれば選ばれるのか。神奈川大学の学長に、現状の分析とビジョンを伺った。(聞き手:編集部)

※本稿は、『Voice』2026年9月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

20万人以上の定員未達が生じる

――今年4月、財務省が2040年を目標に「私立大学250校(現状の4割)削減案」を公表し、関係者に衝撃が走りました。どのようにご覧になっているでしょうか。

【戸田】この案を出していただいてよかった、と思います。

――えっ?

【戸田】少子化による18歳人口と受験生の減少で私立大学の経営が困難に陥ることは以前から皆、わかっていました。目の前に危機があるにもかかわらず、なかなか改革の機運が醸成されてこなかったという状況があります。

250校削減というのは最低ラインで、正確にいえば「250〜400校程度削減」ですから、4割減どころでは済みません。日本の私立大学は624校(2025年)あるので、約200校しか残らないことになります。

――とてつもない厳しさですね。

【戸田】少子化についていえば、2025年の日本における出生数は、前年(確定値)より1万4937人減って67万1236人(厚生労働省発表)。

他方で大学の状況を見ると、2024年度に約62万人だった国立・私立大学の入学者数は、2050年度に約43万人に減る、と予測されています(文部科学省推計)。24年の大学入学者総数は、募集定員の総数62万5188人を1万人以上、下回りました。大学進学率は変わらず約6割なのに、募集定員は増えつづけています。

したがって現状のまま推移すれば、2050年度には20万人以上の定員未達が生じるでしょう。多くの大学は統廃合が必至となります。

――根本的な課題はどこにあるのでしょう。

【戸田】現在の大学のビジネスモデルは、「入学試験の定員さえ埋めれば、あとは人数分の授業料が自動的に入る」というものです。他の業界から見れば、甘いといわざるを得ません。

したがって定員割れを起こしたとたん、他に収益を上げる事業がないので、経営が窮地に陥ってしまう。とはいえ、まずは目の前にある定員割れという事態を防ぐことに注力すべきでしょう。

私たち神奈川大学は2年後、2028年に創立100周年を迎えます。これまでの百年のみならず、これからの百年を生き抜くため、何としてもこの危機を乗り越えなければいけません。

しかし、いくら「危機感を」と訴えても、なかなかマインドチェンジができないのが人間です。とりわけ残念ながら、教員の側にその傾向があります。

幸いにも今回、財務省から厳しい削減案が打ち出されたことで、いままで「うちは大丈夫だろう」と高を括っていた人も、「いま本気で改革をしなければ、母校がなくなってしまう」という言葉に耳を貸してくれるようになりました。これからが勝負だと考えています。

 

大学の評価は社会が決めるもの

――危機を乗り越える戦略、取り組みについてお聞かせください。

【戸田】私が学長(1期3年)在任中、2027年までの戦略構想として「KU(Kanagawa University)ビジョン2027」を打ち出しました。一言でいえば、教育と研究の改革です。

教育に関して、かつては私も含めて先生たちが独自に「自分のしたい教育」を行なってきました。個人の理想や理念も大事ですが、現代は就職支援など、社会の要請に応じた教育を無視することはできません。大学の学修の先にある就職先や、その後のキャリア、社会に対する貢献について、在学時から意識して考えてもらう。そのために必要なのは、情報の統合と共有です。

入試から教務(学修)、就職まで一気通貫する情報のデータベースと、就職活動時のポートフォリオ(採用担当者向けに自分の希望や経験、能力、スキルを記したもの)をつくる仕組みを構築中です。すでに始めている大学もあるので、本学でも実装を急いでいます。

大学の評価は受験生、社会が決めるものであり、同じ偏差値帯なら「キャリア形成に力を入れ、就職のよい神奈川大学」と認めていただけるような差別化がないと、生き残りは困難です。教育もまたサービス産業であることを認識しないかぎり、社会から「選ばれる大学」にはなれません。

個人的な意見ですが、たとえば本人の希望と就職先のミスマッチを防ぐために会社の情報を集めて提供する、ということは、民間の就職支援企業も行なっているでしょう。

しかし彼らにない情報として、大学には入試および入学後の学修に関するデータがあります。この生徒は何を求めて入試を受け、入学後に何を学び、どれだけ成長したのか。クラブ活動やボランティア、アルバイトの情報も重要です。大学に蓄積されたデータをもとに、学生により手厚く有効なアドバイスが可能である、と考えています。

学修データについては、試験の点数や秀・優・良・可・不可の成績評価だけではなく、学部ごとに定められた身につけてほしいポリシー(学修や学位の基準を定めた方針)を理解して単位をどれだけ積み重ねたか、該当分野のGPA(Grade Point Average)が平均と比べてどの水準かなどをきめ細かく定量化し、学生の気づきと努力を促すフォローが求められます。

研究に関して、教育と同じく「自分のしたい研究」だけではなく、ソーシャル・インパクト(社会に対する変化や影響)をもたらす研究をある程度、トップダウンで進めなければいけません。2027年4月、社会課題の解決に向けて研究や資金を司る新たな戦略的研究推進センターの設置を構想中です。

大学は、研究によって支えられた機関です。とはいえ、受験生から選ばれることで大学の経営が成り立ち、はじめて研究にリソースを還元できることを忘れてはなりません。この環境を将来も守るため、教職員が一丸となって努力しなければいけない。研究と教育の両輪が好循環で回り、社会から「〇〇の研究なら神奈川大学」と評価されるブランドを確立したい、と考えています。

 

大学の盛衰はキャンパスの立地にあり?

――最近は学部や就職に加え、キャンパスの立地が学生の人気と大学の盛衰を決める、という説もあります。神奈川大学はいかがですか。

【戸田】主要キャンパスは横浜キャンパスとみなとみらいキャンパスの2つで、いずれも横浜の中心にある。しかも両キャンパスは、電車で4、5駅しか離れておらず、たいへん便利です。

とくに、みなとみらいキャンパスは地域全体を「街ごとキャンパス」と捉え、学外の企業や施設などと連携して問題解決型学修(Project Based Learning)を行なっています。国際都市である横浜・みなとみらいの街全体が学びの舞台となり、充実した大学生活を送れるでしょう。

――みなとみらいキャンパスに入ったときは、外資系企業のオフィスビルかショッピングモールと見紛うほどでした。おしゃれな建物で、学生に人気と拝察します。

【戸田】本学の建学の精神は「質実剛健」ですから、あくまでもハード面の話と理解してください(笑)。

――入試について、「NEW試!」と題して大幅なリニューアルを行ないました。「選べる入試制度」「2併願目は入学検定料ゼロ円」「英語外部試験が利用可能」という大胆な試みです。

【戸田】たしかに入試制度の変更は、勇気が求められます。実績があるうちに制度を変え、志願者が減ってしまったら批判を受けますから。

英語の外部試験利用については受験生から「英検を入試に使わない大学って、いまどきどういうこと? 何か特殊な英語教育でもやっているの」といわれたことがあります。研究と同様に、入試も「学生目線」に変えないと取り残されると反省しました。幸い、いまは志願者総数が4万人を超え、受験者数の増加では全国私立大学で8位になりました。

 

ダイヤモンドの原石を磨く

――少子化時代の波を生き抜くうえで、教職員の努力や在校生の活躍だけでなく、卒業生の協力も必要ではないでしょうか。

【戸田】そう思います。本学の同窓会組織「神奈川大学宮陵会」では、総数24万人を超える校友とともに、国内および海外に130を超える地域組織が独自に活動しつつ、宮陵会と連携して大学や在学生との交流を深めています。

私の専門は会計学なのですが、宮陵会のなかに会計人会があり、先日は公認会計士や社会保険労務士、行政書士など士業の団体連絡会が発足しました。経理や法務に関する無料相談会を行なうなど、積極的に活動をしています。

――横浜キャンパスの宮陵会館を拝見しましたが、たいへん立派な施設ですね。

【戸田】卒業生といえば、何といっても有名なのはサッカー・ワールドカップ日本代表の伊東純也選手。押しも押されもしないチームの主軸で、本校サッカー部のOBです。

面白いと思うのは、彼は高校時代、飛び抜けたスタープレイヤーではありませんでした。大学に入ってから頭角を現し、関東大学サッカー2部リーグで得点王、アシスト王、ベストイレブンを受賞してJリーグの目に留まり、いまや世界のリーグで活躍しています。

神奈川大学では不思議なことに、彼のように高いポテンシャルをもつ学生が入り、成長して卒業後、社会に貢献することが多いように思います。受験生の傾向を見ても、高校時代しゃかりきに受験勉強をするタイプより地頭で合格し、入学後に勉強に目覚める人が多い。

ダイヤモンドの原石を磨き、YOKOHAMA(横浜)を舞台に学生を最も成長させる総合大学として若者の潜在力を少しでも伸ばしたい、と思います。

 

目の前のことに死ぬ気で取り組む

――先ほど会計学が専門と話されましたが、公認会計士や簿記のような資格は、それこそ社会に出てからものをいいますね。実務に役立ち、企業からも一目置かれる。何より会計を知らなければ、本当は会社のことも金融のことも、経済のこともわかりません。

【戸田】おっしゃるとおりです。経済学部の現代ビジネス学科には企業・会計コースが設置されており、みなとみらいキャンパスにも会計学が専門の先生がいます。

もちろん、公認会計士や税理士は現役大学生が簡単にとれるほど生易しい資格ではありません。それでも、在学中の合格を成し遂げた学生が、私のゼミ生にもいます。

すると面白いもので、「自分は会計士なんて無理だろう」と思っていた学生が、同級生に合格者が出たと聞くとやる気に火がつき、卒業後に勉強して合格した、という例もあります。天才や秀才ではなく、普通の人の本気を引き出して社会全体のレベルを上げることができたら、大学としても大変嬉しいですね。

――戸田先生は、農業簿記の第一人者だと聞きました。

【戸田】たんに続く者がいないから、ということもありますが(笑)。自分がなぜ研究職に就いたか、といえば、文字どおりご縁です。両親が研究者だったわけでも、簿記会計に関心があったわけでもない。たまたま所属するゼミで3年生が4年生と一緒に学んでおり、当時は3年生で「4年生になって後輩に指導できなかったら格好悪い」と思い、頑張って勉強したんです。

するとゼミの先生が「大学院を受けてみないか」と声を掛けてくださり、そのこと自体が嬉しくて試験を受けました。当時はバブル期で、「大学院に落ちても、いくらでも就職先はあるだろう」といういい加減な気持ちで研究者になりました。

ただし他の人と違ったのは、いままで縁のなかった簿記会計の分野に対して必死になれたこと。「人生を切り開くにはこの道しかない」と思い定め、研究に没頭しました。

ところが必死になるあまり、ある学会の場で高名な先生と衝突してしまったんです。あとで冷静になって「自分は何ということをしてしまったのか。もう駄目だ」と絶望していました。

しかしさらに驚いたのは、別のある高名な先生が私に「農業簿記を研究する部会の部会長をやってみないか」という。理由を聞くと「あの大先生とやり合えるぐらいだから、できるだろう」と。

――人間万事、塞翁が馬ですね。

【戸田】人生、理想や計画どおりに事が運ぶことはありません。それでも目の前のことに死ぬ気で取り組んでいれば、誰かが必ず見ていてくれる。もちろん誰も見ておらず、救われないこともあります。しかし少なくとも、必死にならない人間にはチャンスは来ない。そのことを身に染みて感じました。

与えられた仕事だと思ってやる気を失うのではなく、全力で取り組めば、思いもよらない道が開けて未来が見えてくる。学長になるなど微塵も予想しなかった者として、いま苦しむ人、若い人たちにいちばん伝えたいことです。

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