2013年06月26日 公開
2023年09月15日 更新
JR東海が2027年の東京―名古屋間の開業を目指すリニア中央新幹線。1964年に東京―大阪間で開業した東海道新幹線の経年劣化や大規模災害を考慮して、バイパス路線として計画されたものだ。もともとは整備新幹線に続く国家プロジェクトと位置づけられていたが、2007年にJR東海が全額自己負担による建設を表明。国もこれを認め、2014年には着工の見通しとなっている。
東京と名古屋を約40分で結ぶルート上には、神奈川県相模原市、山梨県甲府市南部、長野県飯田市付近、岐阜県中津川市西部の4箇所に中間駅が設けられる。中間駅についても、JR東海が基本的な建設費を負担する。地元にとってはまたとない地域振興の起爆剤として期待が寄せられている。
東京、神奈川、名古屋の大都市圏ではリニアは50m以深の大深度地下を走り、その他の区間の多くも山岳トンネルとなるため、地上を走るのは全路線の2割程度とされる。このため、山梨、長野、岐阜の中間駅予定地は、いずれもリニアを新たな観光資源としても位置づけ、活用ビジョンの策定に取り組んでいる。
ところが、ここに来てリニアの景観を巡る難問が持ち上がり、関係者を当惑させている。それは、地上高架部分を覆うコンクリート製のフードである。時速500kmで高速走行するリニアには騒音など厳密な環境基準をクリアすることが求められる。JR東海は山梨実験線で従来型の防音壁や透明フードを試したものの効果が十分でなく、倒木や土砂崩れ対策も考慮してコンクリート製のフードを採用する方針である。
これに対して、リニアの走行風景を観光の目玉として売り出したいと考えていた関係者から異論が相次いでいる。地上走行区間では最長となる甲府市の宮島雅展市長は「甲府盆地を土管が通るのは困る」と地元の意向を代弁。山梨県の横内正明知事もJR東海の山田 佳臣社長に対策を申し入れ、山田社長は「沿線自治体と相談しながら研究したい」と応じている。
リニアを観光資源と捉えて活用策を考えることは、沿線自治体ばかりでなくJR東海にも大きな意義があるものと考えられる。超電導技術を採用した磁気浮上式鉄道は、わが国の鉄道技術の粋を集めたものである。東京―名古屋間の開業を機に、リニア技術を世界に発信するショーウインドーをつくることは、むしろ鉄道事業者の側から積極的に構想すべきテーマとも言える。その際、疾走するリニアを目視できることは必須の条件であろう。
沿線の地上走行区間のうち、甲府市南部は比較的農地が多く、環境基準にも工夫の余地があるように見える。中津川市にできる車両基地と併設する方策もあるかも知れない。長年の努力を積み重ねて、ようやく実現への道すじがついたリニアを、人目に触れないようにしてしまうのはもったいない。JR東海と地元自治体が知恵を出し合い、問題を解決することを期待したい。
<研究員プロフィール:荒田英知>☆外部リンク
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更新:11月22日 00:05