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国政を占う都議選の争点はこれだ!

2013年06月14日 公開
2023年09月15日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

《政策シンクタンクPHP総研 研究員コラム(6月5日)より》

盛り上がりに欠​ける都議選

 急ぎ足の通勤者めがけて早朝から配られるビラ。穏やかな週末に響き渡るマイクの声。安倍総理が「親の敵のようなものだ。取り戻さなければ死んでも死にきれない」とまで執念を見せる参議院選挙が近づいているのか、と思いきやさにあらず。6月14日から始まる東京都議会議員選挙の予定候補者たちが、本番を目前に控えて動きをペースアップさせている。

 都議選といえば、人口の流動性が高く地域課題よりも国政の動向が投票行動を左右しやすい、と言われている。それゆえ、その選挙結果はその後の政治情勢に少なからず影響を与えてきた。前回2009年選挙においても総選挙の前哨戦と位置づけられ、民主党が初めて都議会第一党となったことで、その直後の政権交代の呼び水となった。一方で、新銀行東京の経営問題、築地市場の移転計画、2016年東京オリンピック招致の、いわゆる三点セットが都政の重要な争点となっていた。この争点の明確さが、総選挙を目前に控えているという有権者心理と相まって関心を高め、54.49%と過去5回の中で最も高い投票率となったのだろうと思われる。

 翻って今回の都議選。ねじれ国会が解消するか否かの分かれ目となる参議院選挙を直後に控えて、各党とも国政選挙並みの態勢で選挙前の活動に臨んでいる。加えて、石原前都知事が共同代表を務める維新の会が都議選を初めて闘うとあって、注目度は高まっている・・・はずなのだが、どうも今ひとつ盛り上がりに欠けている。「争点なき都議選」とも評されているように、前回と異なりわかりやすい政策課題が見えてこないことが原因のようだ。といって、東京都に深刻な課題がないわけではない。そこで、どこで候補者を見極めるべきか、3つの視点を提起したい。

候補者を見極める視点

 第一の視点は、東京都を襲う超高齢化。今日まで日本経済を牽引してきた東京都も、足元では深刻な高齢問題を抱えている。東京都に住む65歳以上の高齢者数は、再来年の2015年には300万人を超え、都道府県の人口ランキングで11位の茨城県を上回る。この絶対数を支える社会的・経済的基盤を整えていくことは容易ではない。まず目の前に迫るのは、介護サービスや施設、高齢者向けの住宅等の生活インフラ整備。さらに全国一低い出生率、全国一高い単身世帯率、それに全国的な人口減少も重なり、社会福祉や地域生活の支え手・担い手不足が、引いては公的負担の一層の拡大が予見される。これに、どのように対応していくのか。超高齢化を踏まえた人口政策や社会福祉のあり方を明確に示しているかどうかが、1つ目の評価軸である。

 第二の視点は、都区制度の見直し。いわゆる「大阪都構想」の実現を可能とする大都市地域特別区設置法が、昨年8月に法制化された。また、道州制基本法も早期の制定が取りざたされている。大阪では東京都を参考にしつつも、地方分権改革の進展を受け、あるいは道州制への移行をにらみ、再編する府と市の役割分担について検討を進めている。本家の東京はというと、2000年の改革で特別区が基礎自治体と認められたものの、未だに権能と財源の一部を都に譲ったままとなっている。一方で、例えば世田谷区の人口は85万人と政令市14位の堺市に匹敵するが、その役割には大きな差異があり、規模と権能のひずみが拡大している。こうした中で、都区制度の見直しの必要性を認め、そのあり方を具体的に取り上げているかどうかが、2つ目の評価軸である。

 第三の視点は、都議会の議会改革。全国一高い政務活動費を受け取っている都議会議員だが、自らの議会改革についてはあまり熱心ではなさそうに見受けられる。日経グローカルが昨年11月に発表した議会改革度ランキングでは、東京都議会は32位。議会基本条例の制定や議会のインターネット中継(都議会は本会議と予算委員会のみ)、行政計画等を議会の議決事項とすることなどの、最近の議会改革のトレンドに都議会は乗り遅れている。「都議会のあり方検討会」において、年間を通じて議会を開く通年議会の導入などが検討されているようだが、都民や行政との関係の中でどのような議会のあり方を構築していくのか、必ずしも明確ではない。この現状を受け止め、議会改革の具体的な取り組みをどれだけ明確に打ち出しているかが、3つ目の評価軸である。

首都にふさわしい選挙を期待する

 1,000万人を超える有権者が投票する選挙ともなれば、否応なしに国政を占うバローメーターとなってしまう。だが、その本質はあくまで東京都のあり方を問うべきもの。「争点がないようだから」と投票の機会を放棄せず、この3つの視点に着目して候補者から選び出してほしい。それが議員を鍛え、よりよい都政を導く一里塚となる。

 同時に、候補者にもより一層の努力を求めたい。地方公共団体の中で抜きんでた存在の東京都として、どのような役割を果たしていくべきなのか。都政の抱える問題を、どのように認識し、具体的にどう立ち向かっていくのか。その答えとなる政策で競い合う選挙を、目先の財政力にあぐらをかいたサービス合戦ではない本質的な論戦を、心から期待したい。

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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