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安倍新政権で道州制論議の本格再開を

2012年12月25日 公開
2023年09月15日 更新

荒田英知(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター主席研究員)

 安倍新政権の誕生によって、民主党政権では封印されてきた道州制論議が再び活発になるものと思われる。総選挙の公約をみると、自民党は重点政策で、「道州制基本法の早期制定後、5年以内の道州制導入を目指す」とした。連立相手の公明党も「地域に活力。地域主権型道州制を導入」としており、道州制を巡るスタンスは一致している。

 加えて、政策ごとの部分連合が取りざたされるみんなの党は「10年以内に地域主権型道州制への完全移行を果たす」、日本維新の会も「中央集権の打破=究極は道州制」としている。さらに言えば、民主党も「中長期的な視点で道州制を検討する」としており、道州制の推進気運は以前の自公政権時代よりも盛り上がっているようにみえる。

 自民党は下野していた3年間も党の道州制推進本部で議論を重ね、小委員会では基本法の素案も検討してきた。内閣に初めて道州制担当大臣を置き、2007年に道州制ビジョン懇談会を設置したのは、ほかならぬ当時の安倍総理であった。今回、安倍氏が月刊誌に寄稿した「新しい国へ」と題する政権構想でも、「長期的には、東京一極集中を解消して道州制を導入すべきだろうと考えています」と決意をにじませている。

 ここで気がかりなのは「長期的には」という文言である。自民党の重点政策の詳細版である総合政策集をみると、「地方の重視・地域の再生」と題する章には従来から論じられてきた地方分権改革の項目が並ぶだけで、道州制は終章の「憲法・国のかたち」に位置づけられている。道州制は国政全般に及ぶ改革であるという意味ではこの扱いは正しい。しかし、憲法改正をへなければ道州制の導入が不可能であるかのような印象を国民に与えるとしたらミスリードであろう。

 こうした扱いになった背景には、一定の党内配慮があるのではないか。総選挙前に朝日新聞と東京大学が共同で候補者に行なったアンケート調査に興味深い結果がある。「都道府県に代えて道州制を導入すべきだ」という質問に対して、公明・みんな・維新の候補者はほとんどブレなく「賛成」と回答しているのに対して、自民は「賛成」と「どちらとも言えない」が拮抗している。候補者数が多いから当然の結果と読むこともできるが、従来からの分権改革の経緯をみても、党内に温度差があることは容易に想像できる。

 しかし、このことが道州制の検討再開を妨げるものではあるまい。道州制をめぐる論点は、国・道州・基礎自治体の役割分担の見直しに始まり、それに基く国全体の税財政制度、道州の区割りやその統治制度など多岐にわたる。合意形成のための時間も十分に取るべきだ。先にふれた道州制ビジョン懇談会の中間報告は、道州制の導入決定から完全移行までに8年を要するとした。今すぐ検討に着手しても、その実現は長期的なものにならざるを得ないということだ。だからこそ、安倍新政権は道州制に関する本格的な検討体制を早期に整えるべきである。

 <研究員プロフィール:荒田英知☆外部リンク

 

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