2012年12月13日 公開
2024年12月16日 更新
この秋、「釜恵バーガー」というハンバーガーができた。岩手県釜石市特産の鮭の切り身に、岐阜県恵那市特産のとうがらし「あじめこしょう」を使ったハンバーガーで、しっとりとしたまろやかな鮭の味わいを、「あじめこしょう」のピリリとした辛さで引き締めている絶品である。「食と農」をテーマに全国の高校生が地域ブランド品を開発する「高校生みんな de 笑顔プロジェクト」の被災地コラボ企画として、釜石市の移動販売者「キッチンカー」のメンバーと恵那農業高校の生徒たちのコラボによって開発した一品。11月23日に開催された恵那農業高校学校祭で 1000食提供したところ、またたく間に完売。大人だけではなく、小さな子どもたちにも人気だったという。
釜石市、恵那市ともに、ふるさとの先人を地域づくりに活かす全国の自治体が集まる「嚶鳴フォーラム」のメンバーである。しかし、首長や行政間の交流は行われていたが、1000キロ近く離れた小さな自治体同士でもあり、市民間の交流はほとんどなかったに等しい。
それが変わったのは、一昨年の東日本大震災で、それぞれが可能な範囲で釜石市を支援しようと、嚶鳴協議会が参加自治体に呼びかけてからだ。恵那市でも、早速、市民に支援を呼びかけたところ、多くの賛同があった。実は、恵那市では、ふるさとの先人・佐藤一斎歿後150年を迎えた平成22年に、市をあげて「嚶鳴フォーラム in 恵那」を開催した。そのメンバーに釜石市も入っていたため、市民には、釜石市が身近に認識されていたからだ。
その後も、市と教育委員会が『小学生の「言志四録」』という書籍を釜石市の小・中学生に届けるなどの支援活動を行なってきた。一方、本年10月山形県米沢市で開催された「嚶鳴フォーラム in 米沢」では、釜石市への2019年ラグビーワールドカップ誘致と、震災メモリアルパーク整備への植樹などの支援が参加自治体によって決議され、恵那市でも広報誌等で発表した。
そのような行政主導の交流活動が、新聞等のマスコミで少しずつ紹介されることにより、市民の間にも釜石市が知られるようになってきた。釜恵バーガーを開発した恵那農業高校の生徒たちがそのことを意識していたかどうかはわからないが、農業祭では、ラグビー誘致や釜石市の復興計画等も大きく展示していた。
東日本大震災以降、自治体間での広域連携が盛んになっている。しかし、いかに行政間でしくみを作っても、そこに住む市民間の交流がなければ血の通った連携はできない。嚶鳴協議会でも、来年、防災協定を結ぶ予定だが、その前提には、平時における行政・市民が参加する歴史文化交流をおいている。釜恵バーガーの開発は、文化交流という地道な活動が一つの小さな成果として現れたものではないかと思う。
釜石市のふるさとの先人で、わが国近代製鉄の父といわれる大島高任は、「小さく産んで大きく育てる」という有名な言葉を残している。
行政主導で始まった恵那市と釜石市の交流は、「釜恵バーガー」という市民間の等身大の小さな成果を生み出した。その小さな種を大切に大きく育つよう、行政も市民も努力を続けてほしいと願わずにはいられない。
<研究員プロフィール:寺田昭一>☆外部リンク
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更新:12月27日 00:05