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鳥の鳴き交う姿に自治体を重ねる ―「嚶鳴」の意味するもの―

2012年10月29日 公開
2023年09月15日 更新

寺田昭一(政策シンクタンクPHP総研シニア・コンサルタント)

 10月13日、藩政改革で知られる藩主・上杉鷹山のふるさと米沢市で「嚶鳴フォーラムin米沢」を開催した。平成19年に、鷹山の師である儒学者・細井平洲をふるさとの先人に持つ愛知県東海市の提案で、作家の童門冬二氏を迎え、ふるさとの先人を地域づくりに活かす全国の12自治体に呼びかけて始まったこのフォーラムも今年で6回目。

 昨年は、釜石市で開催する予定だったが、東日本大震災で釜石市が被災。即時に、東海市が中心となりフォーラム参加自治体が手を取り合い釜石市への支援を行うとともに、釜石市の経験をもとに防災をテーマに東海市でフォーラムを開催した。

 それから一年、釜石市への継続支援のあり方を参加自治体が協議した結果、将来に夢のある支援をということで、釜石市の被災地に「絆の森」を作る運動の輪を広げることになり、釜石市へ決議書を手渡した。と同時に、もう一度、フォーラムの原点である「ふるさとの先人を活かす」とはどういうことかをテーマにフォーラムを開催した。

 嚶鳴とは、中国最古の詩集「詩経」に出てくる言葉で、「鳥が鳴き交うように仲間が集まって学び合う」という意味。細井平洲も江戸に開いた私塾を「嚶鳴館」と名づけたが、ここで、人間のあり方、世の中のあり方を師弟が一緒になって話し合い学び合った。そこから全国各地の藩政改革のリーダーが輩出した。

 嚶鳴フォーラムもその「嚶鳴の精神」を現代に蘇らせ、世の中を良くしようという目的で始まったのである。しかし、言葉で「嚶鳴」と言ってもどこか具体的なイメージが浮かんでこなかった。それが偶然というのだろうか、必然というのだろうか、米沢で今年のフォーラムが開催される少し前、細井平洲と同時代の鏑木雲潭(かぶらぎ・うんたん)という画家の「嚶鳴之図」を童門冬二氏が手に入れられ、嚶鳴フォーラム参加自治体の励みになればと寄託いただいたのである。

鏑木雲潭 「嚶鳴之図」(部分)

 以下、童門冬二氏が「嚶鳴之図」に寄せた一文を紹介する。

  *    *    *

 「嚶鳴とは『鳥が声を合わせて鳴くこと』と漢和辞典に書いてあります。それもオスとメスがオウオウと鳴き交わすことだそうです。しかし細井平洲先生はこの光景を、『必ずしも愛をささやきあっているのではない』と説明されます。

 ではなんのために鳴きあっているのかといえば、『身近な社会問題を討論しているのだ』といわれます。平洲先生が江戸におけるご自身の学塾を『嚶鳴館』と名づけられたのは、そういう意味がこめられていました。つまり、『この塾で学ぶ者は、ただ古いテキストの字句解釈で時間をすごすのではなく、現実に起っている身近な問題をテーマにして、どうすればよいかを大いに議論してほしい』ということなのです。

 平洲先生の、
 ・学んだことは必ず実行する。
 ・実行できない理論は学問ではない。
 というきびしい〝生きた学問論〟の具体化です。ということはずっと頭の中では理解してきましたが、〝嚶鳴〟の具体的なイメージが実をいえばなかなか描けませんでした。

 ところが先日大分県竹田市の首藤市長さんのご尽力によって『嚶鳴之図』を入手することができました。二十六羽の番(つがい)になった鳥が、オウオウと鳴き交っている様がひとめでわかります。そのまま、『平洲先生の塾で議論する門人たちの姿』を思わせます。
 
 ごらんいただくことによって、平洲先生の深い志を私たちがさらに認識する助けになると思います。私たちも絵の中の一羽の鳥なのですから。」

  *    *    *

 先に引用した「詩経」の原文は、〈木を伐ること丁丁たり、鳥の鳴くこと嚶嚶たり。幽谷より出て喬木に遷り、嚶として其れ鳴くは、其の友を求むるなり〉である。この一節と「嚶鳴之図」そして、童門冬二氏の一文はいずれも、地域の自立が求められる現代において、地方自治体が相互に切磋琢磨することの重要性を説いていると解釈したい。

<研究員プロフィール:寺田昭一>☆外部リンク

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